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新型インフル:検証・国内感染1カ月/1 発熱外来に殺到 拡大「予想以上」

 ◇国の対策もろく

 水色の防護服姿の看護師2人に連れられ、神戸市内の男子高校生がワゴン車を降りた。5月16日未明、神戸市立医療センター中央市民病院。ほどなく国内での新型インフルエンザ感染が初めて確認され、混乱が始まった。

 病院外のプレハブに設置した発熱外来には患者が押し寄せた。外科や整形外科の医師も駆り出され、手術延期や救急体制縮小も強いられた。同病院を運営する神戸市民病院機構の清家久樹・経営企画室マネジャーは「感染が広がる速さは予想以上だった」と話す。

 神戸市発熱相談センターも混乱した。電話は鳴りやまず、16日588件、17日1875件、18日2089件……。回線はパンク状態で、発熱患者が直接、一般の医療機関を受診する原因となった。

 新型の疑いがある発熱患者が他の患者と一緒にならないよう、発熱相談センターに電話してもらい、専用の発熱外来へ誘導する--。国が描いていた対策はすぐ破綻(はたん)した。

   ■   ■

 秋以降に流行の「第2波」があると、国内でも数千万人が感染すると想定されている。対応できるのか。

 日本感染症学会は5月21日、全医療機関で感染者に対応することを求める緊急提言を公表した。作業グループ座長の渡辺彰・東北大教授は「一般医療機関にも感染者が紛れ込み、分離は不可能。欧米で発熱外来は聞いたことがない」と話す。

 提言を既に実践しているのが仙台市だ。06年から、元仙台検疫所長の岩崎恵美子副市長の提唱で市医師会と検討を重ね、独自の医療体制を構築した。発生初期から、市内の内科や小児科の病院・診療所の8割以上が診療する。仙台市医師会の永井幸夫副会長は「最初は反対があったが、一部の医療機関でやろうとしてもパンクするという危機意識を共有した」と振り返る。

 決め手となったのは市の手厚い支援だ。対応する医療機関には、密閉性の高い医療従事者用のマスクをスタッフ1人あたり60枚と予防投与用の治療薬を配布した。永井副会長は「事務職員の分までというのが効いた。やろうという雰囲気が盛り上がった」と話す。

 一方、発熱外来の充実を目指す自治体もある。東京都は全国最多の69カ所に設置し、必要ならさらに増やす予定だ。多数の医療機関が協力する背景には、やはり手厚い支援がある。発熱外来設置に上限1500万円を補助し、患者を待機させた場合は謝金も払う。

 前田秀雄・都福祉保健局参事は「人が密集し、入国者も多い東京は、感染症外来の充実が急務。感染症対策全体の底上げの機会にしたい」と話す。

 国は行動計画で、新型まん延後は全医療機関で対応することを求める。だが、入院患者を受け入れる病院に、人工呼吸器や防護服の購入費を一部補助するだけだ。仙台市の岩崎副市長は手厳しい。

 「患者が増えたから診療所で診察と言っても、急にはできない。国は地域の医療事情を知らないまま、言えば何でもできると考えている」

    ◇

 新型インフルエンザが国内でも広がっていることが確認されてから1カ月。今後へ向けた課題を追った。=つづく

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 ■ことば

 ◇発熱外来

 新型インフルエンザが疑われる患者を最初に診察し、感染者と一般患者を振り分けて院内感染を防ぐのを目的に設置。03年にSARS(新型肺炎)が流行した際、香港などで設置された「フィーバー・クリニック」が基になっており、国の行動計画に05年12月の改定で盛り込まれた。都道府県に対し、2次医療圏(全国349地域)単位での設置を求めている。

毎日新聞 2009年6月16日 東京朝刊

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