英軍の女性兵士たちは日本軍捕虜の前で全裸となっても平然としていた。敗戦となりミャンマーで捕虜生活を送った西洋史家の会田雄次さんの体験記「アーロン収容所」に出てくるエピソードだ。
1962年、創刊されたばかりの中公新書の一冊として世に出た。それから47年。中公新書はこの春で2000点を超えた。記念の小冊子に作家や学者らによるベスト3が掲載されているが、「アーロン収容所」を選んだ人が最も多い。
女性兵士が裸でも平気だったのは、捕虜を家畜同然にみていたからではないかと会田さんは考えた。「西欧ヒューマニズムの限界」を指摘したユニークな西欧文化論となった。
出版界では、中公新書と岩波新書、講談社現代新書を「新書御三家」と呼ぶ。当時は学生や知識人に好まれる啓蒙(けいもう)・教養的なテーマで名著が続々と誕生し、読んでないのが恥ずかしかった。
現在は第3次新書ブームだそうだ。ちくま、新潮、文春、集英社など新書だけで60種以上ある。著者は学者だけでなく政治家、運動選手、タレントもいる。内容も時事問題からハウツーまで多彩だ。メガヒットも多い。
しかし、あまりに点数が増え、中身の薄さが気になることがある。専門的知識を分かりやすく市民に提供するという新書の原点が大切ではないか。