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僕が2ちゃんねるを捨てた理由 (扶桑社新書)
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なんか書評書けと言わんばかりにこの本貰いましたが、まあ私に書かせてもメリットはないかと。ジャーナリストだからタブーないし。
一言でいうと、ひろゆき氏及び2ちゃんねるについて、知りたいことが全部隠されてる本だった。関係者一堂、空気読みすぎ。いつもイチローにくっついてる義田貴士みたいな“安牌インタビュー”は1冊目で十分かと。多くの読者は「知ってて書かない政治家の番記者」じゃなくて、やっぱり立花隆的なものを求めていると思う。
具体的には何かといえば、まあ以下2点が代表的な「編集者は出したいけど本人がOKしないタイトル」だろう。いずれも、ひろゆき氏の天才的なところなので、再現性ある形で書籍にまとめたらベストセラー間違いなしだ。
①「ひろゆきはなぜ逮捕されないのか」
一部上場企業(ドワンゴ)子会社の取締役を務めているのに報酬ゼロの理由について本書では「貰っても差し押さえられるだけだから」と不敵なコメントを残している。つまり、国内では正規ルートで給与を貰えない身になっているのが、現在のひろゆき氏だ。まさに「裏街道を生きることに決めた男」。スーパーアウトローだ。
なぜ給与を差し押さえられるかというと、2ちゃんねるへの書き込みを放置した管理者責任を問う損害賠償請求などの敗訴で賠償を命じられており、その支払いを拒否し続けているから。その額がまた、ハンパでない。
本人すら全体像を把握していないものを読売が執念深く計算しているのがまた面白いのだが、それによると、2007年3月時点で少なくとも43件で敗訴が確定し、賠償額は計約4億3400万円。さらに1日88万円ずつ「制裁金」が増えているそうだから、2年余り経った現在では、およそ11億円に膨らんでいることになる(これが2ちゃんねるを捨てた理由の筆頭なのは明らかだが、本書では触れていない)。
→敗訴連続のひろゆき氏 賠償額累計約4億円?
これら11億円の債務踏み倒しを公言しつつ、役員として「ニコニコ動画」を手掛け、このような本も出し、雑誌に連載もやって、と活発に仕事をする神経の図太さは、なかなかマネできない。本書によると何事もロジカルに考え徹底的に調べるというから、現在の法体系では支払わなくとも問題ないことを確認済みということだろう(新規訴訟で加速度的に額が膨らむのも面白くないから「捨てた」といったところか)。
今後、法改正があって刑事罰の対象になっても、普通は過去に遡って適用されることはないから問題はない。ただ日本の場合、まともな法治国家ではないため、サラ金の「過払い訴訟」のように、過去を覆してくるウルトラCも時々、起きる。仮にそうなっても、既にそれを上回る資産を海外の安全なところに移管済みだから、払えばいいや、というところだろうか。
この柔軟な考え方は、様々な示唆を与えてくれる。つまり日本という国は一応、法治国家ということになってはいるが、それはタテマエに過ぎず、法の抜け穴を利用して賢く生きる道もあるのだ、ということ。
たとえば国民年金にしてもNHK受信料にしても各種税金にしても、真面目に法律どおり払う人ほど損をする仕組みになっているのが実態だ。正直者がバカを見る「払い損国家・ニッポン」。さらには国会議員の政治献金にいたるまで、法の趣旨を守らず抜け道を使う議員ほど資金的に有利になる仕組みになっている。
ひろゆき氏も、表の所得がないから所得税すら払っていないことになる。それでも上場企業グループ会社の役員でいられる。これは日本のコンプライアンスの相場上は、特に問題ないことを意味している。
ここに、日本のDNAがはっきりと浮かび上がる。「額に汗する労働者が報われる社会に」などと検察は言うが、それがいかにタテマエであるかは、こうした穴ぼこだらけの法律を見れば一目瞭然。その欺瞞を、ひろゆき氏に指摘してもらいたいのである。
もしくは、日本は本質的にそういう国なのだから諦めて、法の抜け穴を調査し、ロジカルに徹底研究して、タテマエに縛られずに生きる人生術について、語ってもらえばいい。特に日本は出る杭を打つ、新しいもの(2ちゃんねるもそうだ)を打ち砕く社会なので、その際の対処法としての重要性は高い。
具体的には、「罰」が与えられる相場観が重要なテーマとなる。現状では賠償金債務11億円は払わず1億円超の年収を公言し(おそらく海外口座)、上場企業子会社の役員として活躍できるので、そこに「罰」は微塵もない。
自社株で表ガネ140億円キャッシュアウトしたホリエモンは逮捕され懲役という「罰」が確定しそうだが、ひろゆき氏の賠償金無視&年収1億円超(国内の給与所得ではないので実質裏ガネみたいなもの)はOKとされる日本。
その線引きは一般人には見えないが、ひろゆき氏には見えている、というわけだ。この相場観が、イコール国家権力の及ぶ範囲ということになる。国民は、この見えない線を知らないと安心して生活できないのだから、ぜひ解説していただきたい。
ほとんどの人が車を運転すれば制限速度オーバーでスピード違反を犯すように、日本人は常にタテマエ上は全員違法状態で、そのなかから誰を逮捕するかは、相場観に基づく国家権力の裁量次第なのだ。
その論理について、現在収監中の元ライブドア・宮内氏は著書『虚構』のなかでこう述べている。
| | | 堀江や私は、違法は論外としても、法の網の目をかいくぐる行為は合法なら許されると信じていた。それに、合法の積み重ねが邪な脱法意識のもとで行われると、国家権力はその脱法を許さないという「国家の論理」を知らなかった。要は未熟だった。 |
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少なくともひろゆきレベルは全然OK、というのが今の国家権力(検察、警察、国会)が出している答えなのだ。
②「ボランティアに働かせてトップは年収1億稼ぐ仕事術」
これが2つ目の案。この本が出たら、まず、すべての経営者が買うだろう。これは2ちゃんねるのビジネスモデルの根幹をなす部分である。ボランティアワーカーに金銭ではなく「自分の遊び場」といった“オーナー感”のような対価を与え、削除業務や板の統廃合業務などの仕事をボランティアでやってもらい、自分は広告収入などで、自称年1億3千万円をガッツリ稼ぐという、超・経営論。
このスタッフの「モチベーション・インセンティブ管理」の手法は、天才的というほかない。NPOの経営にも適用できるのではないか。次期総理予定の鳩山「友愛」由起夫氏がしきりに言う「ボランティア経済」の理念にも通じるものがある。
具体性や方法論がまったく見えない鳩山氏だが、その点、ひろゆき氏は実績がある。ゲームと睡眠ばかりで「1%のひらめきと99%の他人任せ」によって、「仕事といえばボランティアの人たちの小さな揉め事の仲裁に入るぐらい」だというからすごい。
その暗黙知を形式知化できれば、教育・介護・医療・子育てといった分野の国家財政への貢献は計り知れないだろう。
以上、お友達感覚の馴れ合いや対談本はもういいので、ガチで上記に挑戦してもらいたい。