マユミ嬢、誕生日記念作品
『再会』
書いた人:ZH
(絶対、絶対に・・・。また会いましょうね) シンジ君と洞木さんの顔が見えなくなってから、ようやく私は目の端を擦りました。 少し遅かったみたいで、一杯になっていた涙が頬を伝い、口元に涙の少ししょっぱくて切ない味を感じました。 初めての友達・・・・そして自分のことを叱咤して励ましてくれた男の子。 たぶん、初めての恋。 本当は、図書館でぶつかる前から気になっていました。 自己紹介をしたとき、ちょっとだけ目が合ったときから気になっていました。 涼しくて、自信なさそうで、ちょっと寂しげな瞳でした。 自分と同じ・・・。 何か通じるところがあったのかも知れない。 詳しくは聞けなかったけど、最後まで聞く暇も聞く勇気もなかったけど、きっと彼も私と同じ。 本を良く読む所為だと思うけど、図書館でぶつかった時、ありがちだけどそれが返って運命的な物に感じられました。 「大丈夫?」 「うん。僕は平気だけど・・・」 至近距離で男の人の顔を見たのは、もしかしたら初めてのことだったかしら? あの時、お互いの手と手が触れたとき、シンジ君は照れた顔をして困ってました。 初めてでした。 今まで私の周囲にいた男の子は、私の気が弱いだろうと無理矢理近寄ってくるような、そんないやらしい人ばっかりでしたから・・・。 惣流さんと一緒に暮らしてるようだけど、きっと家じゃ始終困っているんじゃないかしら? そう言えば、私が謝る癖があることに妙に戸惑っているみたい。先手を取られてどうしようって感じで。 たぶん、彼もそうだからだと思う。 あの時、私だけじゃなく、シンジ君も私達よく似てることに気付いたのかな・・・。 碇君と別れた後、たぶん私病気と間違われそうなくらい赤くなっていたんだろうな・・・。 今思い出すと不思議な体験ばっかり。 緊急警戒警報が意味することを知らないまま、街に出て遭遇したあの言語を絶する戦い。 紫色の巨人とお化けが緑の風薫る田園の中で戦っているなんて。 私が誰とも口をきかなかった所為でもあるけど、誰も教えてくれなかったことはちょっとショックだったけど。 どうもあそこでは常識らしいけど、一言くらい・・・。 そして恐怖と言うより、驚きで動けなくなった私を助けてくれた巨人・・・・ロボットでなく、人造人間らしいけれどそれを動かしているのがシンジ君。 大分予想と違う白馬の王子様ならぬ、紫の巨人の王子様だったけど。 あの時からだと思う。 碇君から、シンジ君へと意識するようになったのは。 だって運命的なものを感じたから。 結局シンジ君の顔を見ることなく、あの後、葛城さんという人から決して口外しないようにと誓約書を書かされたけれど、あの時の体験は嫌な物と言うより私にとってはロマンティックな物だった。 乙女の欲を言えば、コクピット?に一緒に乗ってみたかったけど・・・。 少々美化してしまった気もするけど、後日学校に行く途中に出会ったときも運命的な物を感じました。 本を好きだと言っていました。 同じ趣味の人がいるだけで嬉しくなる。孤独だという気持ちが薄まるから。 でも、それよりあの時は、一緒に並んで歩いているという事実の方が嬉しかった。なんだか積極的になれたようで。 そして私の胸は、自分でも驚くほどドキドキしていました。 あの時自分が何を言ったのかも良く覚えていないくらい。 二三、たわいのない話をしただけだと思うけれど・・・。 舞い上がっていたことと、あの苦しさ。 たぶん、あの時使徒に取り憑かれたんだと思う。 自分の中に、もう一つの存在を感じてそれが自分を覆い尽くそうとするように、心を探ろうとするようにざわざわとのたうった感触は、今も覚えてる。 おぞましくて、知りたくもないけど強姦されたらあんな感じなのではないかと思う。 忘れたいけど、たぶん、一生忘れられない・・・。 あの後、使徒に取り憑かれたとも知らない私は、内心シンジ君と会話したと言うことにいつになく心を高ぶらせながら授業を受けていたっけ。 アレが授業と言えればだけど。 あの先生、セカンドインパクトの思い出話をしながら唐突に質問をしてくるから、妙なところでスリルを感じちゃったっけ。 私じゃなく、シンジ君が当てられて困っていたのを助けたけど、あの照れ笑いのためならって・・・・なんでかそう思っちゃった。 私が言うのも何ですけど、シンジ君って、保護欲、母性愛?をかき立てられる・・・・・そんな男の子だと思います。 「たのんます!」 「その美貌を見込んで!」 はじめは何言ってるんだろ? そう思ってた。 クラスでも目立つ、騒々しくていやらしい男の子代表の二人。 相田君と鈴原君。 転校初日で水泳という、今思えば無茶なことをしたあの時、いやらしい目でじろじろ見てたことは私の記憶に新しかったから、本音は適当に言葉を濁して逃げるつもりでした。 でも・・・。 「無理にとは・・・・言わないけれど」 シンジくんが自信なさそうに、そう私に頼み込んできました。 客観的に見るとお願いと言うより、なんなんでしょうね? ただ言えることは、あの時シンジ君が何も言わなければ、私はバンドのボーカルなんて引き受けなかっただろうと言うこと・・・。 それでも驚きだったことは、私がボーカルなんて一番目立つことを、それも大勢の前で歌うことを承知したことです。 私が私じゃないみたい。 それにしてもシンジ君、他の二人が親友で『三馬鹿大将』(←違う)と呼ばれてるみたいだったけど、友達は選ばないと・・・。 でも、練習中、三人ともとっても息が合っていて。あれが男の友情って物なのかしら? それからのことはまるで夢みたいでした。 毎日、昼休みと放課後に特に用事がないときは音楽室を借りてバンドの練習をして・・・。 歌は嫌いじゃなかったから。 楽しかった。 あんな風に、みんなと楽しく何かする体験は初めてだと思う。 転校ばかりで、誰かと仲良くなることができなかった私が、初めてした積極的なこと。 シンジくん達とも、すぐに別れ別れになることはわかっていたけど、少しでもシンジ君と一緒にいたくて。 ちょっと肩がかすっただけで顔を赤らめて、譜面を手渡すときにわざと手が触れるようにしたリ・・・。 あの時が永遠だったら・・・。 そう。 あの歌詞も、まるで今の私達を象徴しているような、そんな歌詞。 私はずっと一人だと思っていた。 世界にたくさん人はいるけれど、でも孤独しか感じなかった。 でもちょっとした、たわいのないきっかけから碇君がシンジ君になって、そして一人は嫌だと思うようになった・・・。 自分を偽ることを止め始めていたのもあの時から。 洞木さんや惣流さん、他のみんなと、少しだけど会話したのもあの時が初めて。 遅ればせながらと、私の歓迎会をやってくれたのもあの時。 洞木さん、始めのきつい印象とは大分違う人だってわかった。 惣流さん、アスカって呼べって命令されたけど、偉ぶってるわりには可愛いかも? 葛城さん、シンジくん達の言葉通りどうしようもないダメ人間でしたっけ。昼間からお酒のむ人、私初めて見ました。 鈴原君、と、と、トンでもないモノ見せてっ!!!! とってもご機嫌斜めだわ! 相田君、カメラはやめて欲しかった。自意識過剰かも知れないけど、なんとなく私はカメラが嫌いだから。 シンジ君、葛城さんと惣流さんに挟まれて、困った顔してた。 綾波さん・・・・・彼女とだけは最後まできちんと話す機会がなかったけど、彼女の孤独は私やシンジ君のそれとは違う気がする。 考えてみると、みんな私のライバル・・・・かな? それでも私の初めての、大切な人達。 そしてずいぶん久しぶりにあの夢を見たのもあのころ。 お母さんと、お父さんの、あの映像。 現実感のない、夢のような不思議なそれでいて金属みたいにしっかりとした映像。 そして自分の内面を見つめる自分。 どうせすぐ転校して別れるなら仲良くする必要ない。 勝手に自分に干渉する他人と口をきく必要もない。 本だけあればいい。 本は裏切らない。 今まで何度も自分を裏切ったこの世界のように。 だからシンジのことも期待しない。 どうせ、期待を持たせたあげく裏切るに決まっているから。 昔ならそう私も肯定していたと思う。 でも、あの時の私は、泣いてた。 「爆発音だ!」 「事故かいな!?」 あの時の苦痛は言葉にできないくらい。 下腹部から伝わる痛みは、まるで中に何かいて暴れているみたいで・・・。 使徒に取り憑かれたと知らなかった私は、何の経験もないのに妊娠したのかと、とても怖かった・・・。 そして私の目の前でシンジ君とアスカさんが、あの巨人、エヴァンゲリオンに乗り込んで出撃していた。 その隙に私達は避難するという段取りだったらしいけれど、なぜか一向に避難は開始されませんでした。 葛城さんは連絡ミスとか言ってたけど、本当に? このことだけは、何か人為的なものを感じて釈然としません。 そうこうする内に、私達が避難する間もなく怪獣、使徒とシンジくん達の戦いが始まりました。 戦いが始まってすぐに気がついたこと・・・。 それは、あの使徒がしきりに私に意識を向けていること。 その目を見たとき感じた背筋の寒気は、今でも覚えてる。 私を見ていたから。 そしてもう一つわかったこと。 それは、私の所為でシンジくん達が危ないと言うこと。 もう無我夢中でした。 自分の身も省みず、ビルに叩きつけられた紫のエヴァンゲリオンに向かって必死になって走って。 そしてシンジ君に、今思うと嫌われても仕方ないことを言ってしまって。 そうですよね。 よりにもよって、シンジ君に私を殺してだなんて・・・。 あげく、シンジ君の必ず使徒を倒すって言葉を信じないまま、短絡的にビルの屋上に上って・・・。 飛び降りた私をシンジ君は身を挺して受け止めたそうです。 気を失っていたからわからないけど、あの時、シンジくんは泣きながら私に怒っていたって。 アスカさんが本気になって怒りながらそう私に教えてくれました。 あ・・・・そう言えば、いつの間にか惣流さんじゃなくてアスカさんになってますね。 シンジ君が初恋の人なら、アスカさんは初めての友達かも知れません。 「私・・・・まだ生きてる」 結果として、使徒は倒され私達は犠牲者を出すことなく翌日を迎えることができました。 そして私はあんな事があったにもかかわらず、ちょっとした検査の後、その翌日には予定通り義父の新しい赴任先へと引っ越すことになりました。 平日と言うこともあり、見送りに来てくれたのはシンジ君と洞木さん。 二人だけだったけど、今までは見送りに来てくれる人なんていませんでしたから、とても嬉しかった。 そして悲しかった。 言いたいことはたくさんあったのに。 なのに、あんな遠回しな言い方で、ろくに言いたいことも言えず・・・。 ちゃんと言えなかったこともそうだけど、でも、一番の心残りはアスカさん。 自棄になった私の自殺未遂。 あれでアスカさんを怒ってしまって、それ以後ろくに口をきいてもくれませんでした。 だから心残りは、アスカさんに一言、本当に謝っておきたかったこと。 もう、シンジくん達がいる第三新東京市が遠くになりすぎ、遠景になってます。 さすがにつかれた私は自分の席に戻りました。 そこには見慣れない、真っ白な封筒。 表紙には一言、『マユミへ。Asuka』 あわてて封を切り、中の手紙を読むと。 そこには本の数行だけアスカさんの叫びが書いてありました。 『馬鹿!こんな早く転校するならそうと言いなさいよ! それだったら、ちゃんとあんたのこと怒って、そしてきちんと再会の言葉を言ったのに! この大馬鹿!あんた、シンジより大馬鹿よ!』 急いで書いたみたいで、字も歪んで、文法も変だったけど、でも・・・。 私は堪えきれなくなって、声を殺して泣きました。 涙が溢れて溢れて。 喉が痛くなっても、目が痛くなっても泣いてました。 今度行くところは外国。 もう会う可能性なんて、普通に考えたらほとんどないですけど、それでも私は絶対みんなに合うことを決めました。 だって、約束したから。
また、いつかどこかで
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