初めて分べん室に入り、夫に見守られながら出産する2人の女性を取材した。
先に産んだのは30代の女性だった。1分ほどして、すぐ隣の分べん台で20代の女性が出産した。どちらも男児だった。
ところが、先に生まれた赤ちゃんが泣かない。全身が紫色になっている。へその緒が首にからんで、仮死状態だった。分べん室が緊張に包まれた。医師が蘇生に手を尽くすと、やっと元気に産声をあげた。
生と死は隣り合わせだ。「泣き声が聞こえるまでが長かった」と、初めて母になった女性は言った。我が子の顔を優しく見つめる表情がまぶしかった。
事件や事故ばかり取材していると、つい人の死を軽く見てしまう。母と子の絆に、大事なことを教えてもらった。命の尊さを改めて見つめ直したい。
毎日新聞 2009年6月14日 地方版