岩見隆夫のコラム

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

近聞遠見:鳩山論、パズル解く楽しさ=岩見隆夫

 月刊誌「文芸春秋」は4月号(3月10日発売)で、<これが日本最強内閣だ>という特集を組んだ。識者33人と政治記者84人のアンケートで構成されていた。

 麻生自民党に不満、小沢民主党に不安、加えて未曽有の経済危機のもとで、危機と戦う布陣はできないか、という趣旨である。

 首相をだれにするかが最大の難問だ。アンケート結果を踏まえ、堺屋太一元経企庁長官らが組閣したのでは、奥田碩前日本経団連会長を推していた。民間頼みである。しかし、憲法第67条は、首相を国会議員の中から指名する、としているので、急場の間に合わない。

 私も識者アンケートを依頼され、迷ったあげく、首相欄に、

 <鳩山由紀夫>

 と書いた。ほかに鳩山指名はなかった。

 政治記者84人の人選は、首相に小沢一郎民主党代表(当時)、岡田克也副代表(同)がともに19票で並んでいた。アンケートの締め切りが年明け早々で、民主優勢、小沢の秘書逮捕も起きていない時期だから、理解できる。

 私が<鳩山>としたのは、最強とみたからではない。その点では特集の趣旨に合っていないかもしれない。だが、現実論として、次の衆院選で民主党が第1党になったとしても、野党勢力だけでは到底この難局はしのげない。

 なんらかの形で自民党などとの連携、協力を迫られるだろうが、その場合、鳩山は割合抵抗感なく他党が支持、応援できそうな唯一のリーダー、と判断した。

 つまり、超党派的な首相候補の筆頭、という人物イメージである。のちに鳩山と話す機会があったが、

 「邦夫(弟・総務相)の間違いじゃないですか」

 と言われた。

 平時の首相として、鳩山が最適とは必ずしも思わない。しかし、いまは戦時、緊急事態をどう切り抜けるかという場面だ。政争向き、自説を譲らない断固派はむしろ邪魔になる。調和力がほしい。

 だが、政治家として、わかりやすいかわかりにくいかといえば、鳩山は後者である。かつて、北海道知事選の出馬が取りざたされたことがあるが、

 「1日に何回も考えが変わるんだから、あの人は」

 という話を最近聞いた。優柔不断は自身も認めている。

 一方、十数年来の政友でライバルでもある菅直人代表代行の鳩山評はこうだ。

 「真っ暗闇のがけっぷちの下に、岩があるのか水があるのかわからなくても、平気で飛び込む人だ。エイヤッ!とやっちゃう。そんな勇気の持ち主です。育ちのよさ故の怖さ知らず……」

 勇気なのか、無鉄砲なのか。しかし、外側からはそんなふうに見えない。新党さきがけをともに旗揚げした武村正義元蔵相は、

 「鳩山君は何を考えているのかわからなかった」

 としばしば漏らしたという。

 「これほど秘密を守れない人は政界にいない。なんでもしゃべってしまう」

 というのもよく聞く話だ。

 中曽根康弘元首相による鳩山ソフトクリーム論はいまも本人が好んで口にしているが、その中曽根は以前、

 「数学をやるようなつもりで政治をやっている。それだけに邪気や私心はなく、純粋性は高い。今日の指導者にはない素質で、いずれ評価される」

 と東大工学部計数工学科卒の学歴を引き合いに、高い点をつけた。

 いろいろで、民主党新代表の像は絞りにくい。だが、うっとうしい人物論ではなく、パズルを解く楽しさがある。(敬称略)=毎週土曜日掲載

==============

 岩見隆夫ホームページhttp://mainichi.jp/select/seiji/iwami/

毎日新聞 2009年5月23日 東京朝刊

岩見 隆夫(いわみ・たかお)
 毎日新聞東京本社編集局顧問(政治担当)1935年旧満州大連に生まれる。58年京都大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。論説委員、サンデー毎日編集長、編集局次長を歴任。
 
 

特集企画

おすすめ情報