「施策には着実な進展が見られるところである」。内閣府がまとめた今年の犯罪被害者白書は、犯罪被害者等基本法が制定されてからの3年間の歩みを高らかに総括している。犯罪被害者の存在さえ顧みられていなかった状態から、基本計画を策定し、政府を挙げて258もの施策に取り組んできた成果は、確かに、それなりに評価されてよい。
実例を挙げれば、刑事裁判に犯罪の被害者や遺族が直接参加できる被害者参加制度や、刑事裁判の裁判官が被害者の損害賠償請求についても審理する損害賠償命令制度は、昨年12月から導入された。被害者や遺族に支給される犯罪被害者等給付金の上限額は、私たちが主張してきた通り、自動車損害賠償責任保険金のレベルまで引き上げられた。
しかし、市町村の取り組みにはばらつきが見られ、全市町村に開設される予定の被害者対策の担当部局は、今も約20%の市町村が未開設だ。相談窓口も約40%の市町村にしか設けられていない。また、犯罪の未然防止に勝る犯罪被害者対策はないのに、児童虐待やドメスティックバイオレンスなどに対しては法規制の強化などが図られながら、担当者の消極的な対応などによって、救える命を見殺しにするような悲惨な結果も生じている。当然のことだが、作った仏に魂を入れるべく、積極的な取り組みが求められる。
これまでの施策の数々が、犯罪被害者、遺族や被害者団体からの要望に応える形で進められてきたことにも留意したい。被害者や遺族の感情をくみ取ること自体が大事な施策であることは言うまでもないが、報復感情への配慮が先行でもしたかのように、結果として厳罰化の流れが加速されたきらいは否めない。一方で、交通事故以外の過失犯による加害行為の被害者らについては、要望が集約されにくいせいもあって、対策がほとんど講じられていない。
今後は犯罪を一つの社会病理としてとらえ、市民一人一人が犯罪被害を自分自身の問題として考える姿勢が必要ではないか。親族間、友人・知人間の犯罪が多かった一昔前に比べ、最近は行きずり型の犯行が増加しているからだ。一昨年は刑法犯の被害者約59万人のうち約37万人に容疑者と面識がなかったという。殺人事件では1052人の被害者のうち137人が容疑者とは見知らぬ間柄だった。
犯罪とは無縁で暮らしていても、いつ、犯罪に巻き込まれてもおかしくない状況と言えるだろう。とすれば、たまたま犯罪に巻き込まれた被害者は社会全体で救済すべきだとの考え方を広げねばならない。被害者の痛みを共有しつつ、対策の充実強化を図りたいものだ。
毎日新聞 2009年6月14日 東京朝刊