日本郵政の西川善文社長の進退問題をめぐる混迷が、鳩山邦夫総務相の辞任で決着した。事態はとりあえず収拾したが、麻生太郎首相は優柔不断な対応で指導力不足を露呈させた。今夏にも予想される衆院選を前に政権が受けたダメージは極めて大きいと言わざるを得ない。
今回の混乱は、宿泊施設「かんぽの宿」売却問題で総務省が日本郵政に業務改善命令を出したことに関して、鳩山氏が西川氏の経営責任を厳しく指摘したのが直接的な発端だった。
日本郵政は5月18日の取締役会の「指名委員会」で西川氏の続投を決めたが、鳩山氏はその後も障害者団体向け郵便料金割引制度の悪用事件を含めて西川氏の責任に言及し、最終認可権を持つ立場から続投不認可を明言していた。
郵政民営化の象徴的存在でもある西川氏を交代させれば、小泉構造改革を支持する自民党「改革派」議員の反発は必至。かといって、自らの総裁選出馬の際には選対本部長を務めてきた盟友の鳩山氏を切れば政権基盤への打撃は避けられない。麻生首相は板挟みの状態にあったといえる。
だが、首相の対応と決断はあまりに遅かった。今月に入り、ようやく西川氏続投を認める意向を固めたものの、総務相と財務相、官房長官の3者での話し合いでの調整に任せたまま。29日に開かれる日本郵政の株主総会や17日にある党首討論を前に、最後は細田博之自民党幹事長や公明党の太田昭宏代表らに押される形で、事実上の更迭に踏み切った。
麻生内閣の閣僚辞任は中山成彬前国土交通相、中川昭一前財務相に続き3人目だ。今国会中の解散・総選挙をにらむ首相の政権運営にとって打撃になるのは必至だろう。
鳩山氏は辞任後、離党するかどうかについて否定せず、含みのある発言をした。とりざたされる政界再編への動きも含めて今後の動向が注目されよう。一方、今回の混乱を通じてあらためて浮かび上がったのは、小泉改革やその中心をなす郵政民営化を問う問題だ。
麻生首相は今年2月、「郵政民営化には賛成でなかった」と発言し、鳩山氏は国営化に戻す以外は見直しの対象と述べた。これまで麻生政権があいまいにしてきた問題があぶり出されたともいえる。
政権や与党は、郵政民営化の今後をどうするかを先送りすることなく国民に説明し、総選挙に臨まねばなるまい。
世界保健機関(WHO)は新型インフルエンザの警戒水準(フェーズ)をこれまでの「5」から最高の「6」に引き上げ、世界的大流行(パンデミック)を宣言した。
WHOが警戒水準を引き上げたのは、感染の地理的拡大が一向に収まる気配を見せないことが理由である。メキシコや米国から欧州や日本へ広がり、現在は冬季にさしかかった南半球諸国へ拡大中だ。特にオーストラリアでは5月下旬から1カ月足らずで感染者が千人を超えた。
新型インフルエンザとの戦いは長期戦になりそうだ。WHOは今後3年間はパンデミック状態が続くとの見通しも示した。医療体制の整っていない途上国では被害が拡大する懸念がある。新型に対応したワクチン生産が始まるのはこれからだ。ワクチンや薬剤の支援などで、国際協力が重要となろう。
注意すべきは過去の大流行でも第1波の流行が収まって数カ月してから第2波の流行が起きていることだ。一般のインフルエンザ流行時期になる秋以降に再燃の可能性は高い。
新型インフルエンザは、重症者が感染者全体の数からすれば少ないため弱毒性とされるが、死に至る恐れもあるウイルスが地球規模で流行している事実を軽くみてはならない。
ウイルスが変異して病原性が強まる可能性もある。日本では一部で終息ムードもあるが、警戒水準引き上げは大きな警鐘にもなるだろう。
政府は、国内の患者発生状況を基に柔軟に対応する方針だ。舛添要一厚生労働相は大流行を防ぐため感染状況が早期に把握できる監視体制を強化する必要性を強調した。重症化した場合には手厚い医療が行える体制充実も重要である。息の長い警戒態勢を怠ってはならない。
(2009年6月13日掲載)