ニュークリアフリースクール

第5回台湾への原発輸出

小村浩夫(静岡大学教授)

台湾の原発の状況

 台湾には、今まで3つの原発がありました。核一は金山、核二は国聖、核三は馬鞍山にあります。そして、塩寮につくろうというのが、核四(第四原発)です。台湾の原発の運転者(所有者)は台湾電力で、台湾は電力会社が国有です。台湾の原発はすべてアメリカの独占です。ウェスティング・ハウス社とゼネラル・エレクトリック(GE)社が原子炉、タービン・発電機を交互に契約するという住み分けをしてきました。第四原発は1989年頃に計画が浮上しました。最終的にはGEが主契約なのですが、一時期GEは契約をアメリカの原子力規制委員会の席上で諦めたと言ったことがあります。この後、様々な経緯がありまして、GEが主契約者となります。しかし、実態は東芝・日立が原子炉本体をつくり、日本からの原子炉本体の輸出としては初めてのものとなります。主契約者はGEなのですが、日本の外務省も台湾電力も台湾原子力委員会もなるべくそれを表に出さないようにしています。この契約でも原子炉本体とタービン・発電機が分離されていて、一号炉は東芝、二号炉は日立がつくるのですが、タービンは三菱がつくります。現在、東芝のつくった一号炉はほとんど出来上がっていますが、台湾が受け入れの状況ができていないという状況です。核四の総体的な進捗率は30%です。一号機は2004年7月、二号機は2005年7月に運転開始の予定でした。
 台湾の核四は2基で約6000億円とかなり格安です。同規模の柏崎刈羽原発6号は1基で4300億円です。これは日本が今後の原発の輸出の糸口をつけるためにかなりダンピングしたのではないか、という話です。原発業界は以前に発注された原発の建設・製造をしてきたのですが、これはキャンセルが相次ぎ、縮小を余儀無くされ、現在は保守・管理・修理をしていくしかなくなっています。日本の原発業界はアジアへの輸出に賭けるしかなくなったわけです。アジアで原発が稼動しているのは、日本・韓国・台湾・中国です。今、ターゲットになっているのは、台湾・ベトナム・インドネシア・タイです。注意したいのは、北朝鮮への原発輸出は韓国の売り込みです。台湾の核四は原発業界を持っている国の談合の中で、韓国は北朝鮮、日本は台湾と割り振られたと考えた方がいいと思います。

2000年の動き

 台湾は10年来、色々な闘争を行ってきましたが、2000年になって非常に大きな動きがありました。それは、3月の台湾総統選挙で民進党が勝利したからです。民進党は一貫して原発反対で、陳水扁は核四の問題について決定を迫られました。陳水扁は林信義・経済部長に指事して、核四の「再評価委員会」を発足させました。これが今回の核四の問題で一番のポイントとなるわけです。林信義は9月30日に核四の建設中止を求める答申を提出します。「再評価委員会」は今の日本の状況では考えられないような民主的な運営、対等な構成で、しかも公開で行われました。構成は反核派が9人、擁核派(推進派)が9人で、12回に渡って行われました。議論は、安全性、代替エネルギー、核廃棄物、廃炉など全てに渡りました。6月から毎週金曜日夜7時から6時間行われていたわけですが、これがテレビで2時間遅れで、夜9時から明朝3時まで放送されていました。全部を公開するというのは、再評価委員会の反核派の主張でした。テレビで公開されるわけですから、誰が何を言ったかが全て分かるわけです。お弁当やカップ麺を食べながらの議論やメンバーの大あくびまでが放送されています。
 9月30日に林信義が答申を出したのですが、10月6日に唐飛・行政院長が辞任します。唐飛は林信義を非常に牽制していました。もし原発を建設しないという答申が出るのであれば、再評価委員会の結論を認めず、別に再評価委員会を組織して、もう一度やると言っていました。結局は無理で、唐飛は辞任しました。林信義は自動車業界の副会長で財界人です。委員会を始める前は絶対推進派にまわるだろうと考えられていました。議論の中で変わっていったと考えられますし、財界人としても核四はだめだと思うようになったようです。答申の前に再評価委員会としては核四の建設に対して、反対が9、賛成が6、意見保留が3でした。林信義も保留でした。私は答申は両論併記だと思っていました。しかし、結果は中止を求める答申だったわけです。
 再評価委員会の議論の中でも大切だったのは、核廃棄物問題です。先住民族タオ族の住む蘭嶼島に缶詰め工場と偽って建てられた施設に低レベル放射性廃棄物が貯蔵されていることなどが指摘されました。ここが一杯になり始め、タオ族が反発して船を入れないために、港に石を投げ込むという抵抗をしています。それで蘭嶼島に持って行くことが出来なくなりました。
 2000年10月27日に張俊雄行政院長が建設の中止を発表します。この中で「原発という便利さのために、宝島(台湾)を毒島に変え、子孫に害毒を及ぼすわけにはいかない」「原発のリスク発生率は非常に低いといわれるが、我々は百万分の一の確率さえ、受け入れられない」と言っています。

 原発の終わりの始まり

 核四の問題は原発の終わりの始まりになると思います。契約の破棄をすることで3000億くらいの補償をしなければならないのですが、台湾はこれを心配にはしていません。台湾が心配しているのは、台湾と日本・アメリカの関係悪化です。台湾有事の際にアメリカの原潜は来るのだろうか、ということまで考えています。核四の中止は日本に大きな影響を与えると思います。原子力事故、JCO事故の恐ろしさは徹底されており、原発の新規立地や原発輸出は更に難しくなります。日本の原子力業界は本気で転進を図る必要を迫られています。