高校時代にいい先生がいたなあ。僕が通ったのは東京の私立の男子校でね。1年だったか2年だったか、クラスの仲間が悪さをして、全員で担任から説教を受けた。その最中に、身長が185センチもある運動部の大きな男が「先公ってのはいい商売だ。言いてえこと言えるんだもんな」と言った。担任は「なにいー?」と叫んで、そいつのところへ飛んできた。身長が20センチぐらい低かったけれど、跳び上がってビンタを食らわした。
説教の後で「何で抵抗しなかった?」と聞いたら、そいつは「動けなかったんだ」と。その時に思ったよ。教師が心底から教え子のことを思ってぶん殴ったのか、その時の気分で殴ったのか、生徒には分かるもんだって。仲間はあの場で、自分を思ってくれる担任の愛情に打たれて動けなかったんだな。
体罰の善しあしはあるが、教育というのは「技術」じゃない。全身全霊で生徒にぶつかっていくことですよ。文部政務次官を2度務めましたが、あの時の経験から今もそう思っている。僕が先生でも、恐らくひっぱたくだろうな。その時には尻をたたきます。顔はその人の「看板」だからね。
有識者の「千葉県の教育を元気にする有識者会議」(仮称)を近く設置します。教育で県独自の取り組みを進めたい。日本は無資源国家。「人材」という資源を教育で豊かにするしかないんです。まずは、道徳に力を入れます。僕が言う教育というのは、人間が生きていくのに最低限必要なルールですよ。それが今、壊れている。
僕らは一人で生きてるんじゃない。団体で生活し、共通のルールで生きている。先生や親を敬う気持ちを持つ。そういう当たり前のことを、次の世代に残していかなきゃならない。他人を思いやったり、自分が一歩下がるという日本の美徳が失われつつあります。
有識者会議では学校の枠にとらわれず、家庭教育も検討テーマにします。懸命に生きる親の背中を見て育つとか、今の子供たちにはなかなか望めないよね。県独自の取り組みで、夢や世界観を持って世界へ羽ばたける人材を育てます。【聞き手・井上英介】
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■人物略歴
1949年東京都生まれ。71年の主演ドラマ「おれは男だ!」で、一大青春ブームを巻き起こす。国会議員、文部政務次官などを経て今年3月、千葉県知事選で初当選した。
毎日新聞 2009年6月13日 東京朝刊