きょうの社説 2009年6月13日

◎鳩山総務相辞任 妥当性を欠いた再任反対論
 次期衆院選を間近に控えた麻生政権にとっては大きな痛手だろう。日本郵政の西川善文 社長の再任に反対する鳩山邦夫総務相が辞表を提出し、麻生太郎首相はこれを受理した。鳩山氏は辞表提出後、記者団に「正しいことが通用しないなら潔く去る」と語ったが、西川社長の再任反対がなぜ「正しいこと」と言い切れるのか、その理由が分からない。

 日本郵政は、社外取締役が過半数を占める指名委員会が社長などの取締役人事案を決め る「委員会設置会社」である。指名委は西川氏の実績を評価し、再任を支持した。鳩山氏はこの決定を「お手盛り」と批判し、再任に反対したが、その主張はたぶんに感情的で、国民の多くを説得できるだけの妥当性、具体性を欠いている。客観的な事実による批判でなければ、「政治介入」と受け取られても仕方あるまい。

 麻生首相の盟友とされた人物が、不人気な政権と距離を置くためにあえて仕掛けた高等 戦術なのか、それとも認可権限の行使をちらつかせて西川氏を辞任に追い込もうとしたが、目的を果たせず、引っ込みがつかなくなっただけなのか。政治的な思惑のあるなしにかかわらず、「正義の人」を演じる鳩山氏のパフォーマンスは、日本の政治家の底の浅さを映し出す鏡のようで、正視に耐えなかった。

 麻生首相は、2月の郵政見直し発言で厳しい批判を浴び、撤回後は、この問題に距離を 置く姿勢を貫いた。麻生首相の不用意な発言が鳩山氏の闘志に火を付け、その後の沈黙が事態を悪化させた印象も否めない。発言が軽く、ブレがあるといわれる麻生首相にも責任の一端があり、指導力不足の批判を甘んじて受けねばならないだろう。

 「かんぽの宿」について、売却経緯の検証をした第三者委員会は、売却の決定が「不適 切なものとは考えない」と総括した。総務省による調査でも不正の証拠は見つからなかった。これ以上、「不正」を言い募るのは無理があり、本音は郵政民営化に反対なのだろうと勘繰られるだけだ。追及すべきことがまだあるとすれば、赤字施設を大量に造らせた政治家や旧郵政官僚の責任ではないか。

◎「文化立県」示す指標 誇っていい郷土の豊かさ
 石川県が発表した2009年版「石川100の指標」で、華道や茶道をたしなむ人の割 合が1位になったのをはじめ、美術や音楽に親しむ割合など、文化に関する多くの項目で5指に入ったのは、石川が「文化立県」であることの何よりの証明である。

 指標は国が5年ごとに行う社会生活基本調査のデータなどに基づいて県がまとめている が、全国で「文化立県」を標榜する県が多いなかで、都道府県別のデータに基づく客観的な位置づけは県民の自信や誇りにもつながるだろう。郷土の豊かさを伝える指標として、これらを石川の魅力発信に生かさない手はない。県は積極的に活用してほしい。

 茶道、華道をたしなむ人の多さは加賀藩以来の文化土壌を背景に、女性の習い事として 定着したためだろう。茶道や華道は日本文化の象徴として外国人の関心も高い。人口比「日本一」は海外へ向けての強力な発信力になる。異文化に触れられる地域として海外誘客にも生かせるはずである。

 指標では、美術に親しむ人の割合は2位、音楽は5位、邦楽・民謡等は2位となった。 美術や音楽の首位は東京だが、これは日常的に美術展やコンサートに触れる機会の多さも関係しているだろう。

 「美術王国」を示す日展入選者数、日本伝統工芸展入選者数はそれぞれ17年連続、8 年連続でトップとなった。これらの数字も美術に親しむ人の多さと密接につながっている。優れた作家を育てるのは鑑賞者の目であり、石川の作家群の峰が高いのも鑑賞者のすそ野の広がりがあってこそである。

 文化の担い手の多さは、財団法人石川県芸術文化協会の加盟団体が、設立時の15から 43団体へと3倍近くに増えたことに象徴的に表れている。加盟団体によるビエンナーレいしかわ秋の芸術祭はことし6回目を迎え、海外公演「日本祭いしかわ」もウィーン、豪州、ドイツで開催されてきた。石川だけで質の高い日本文化を幅広く海外に紹介できるのも県民が誇っていい郷土の豊かさである。芸術文化に親しむことで「文化立県」をさらに盛り立てていきたい。