20世紀以降、4度目となるインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)が宣言された。新型インフルエンザの流行が南半球に拡大し、複数の地域での人から人への継続的な感染が確実となったためだ。
今のところ、ウイルス自体に変化はなく、多くが軽症で治っている。しかし、季節性とは異なる点があり、油断は禁物だ。
新型の特徴は、重症者に30代から50代の人が多い点だ。しかも、持病のある人や妊婦だけでなく、3分の1から半数が健康な若者や成人だという。世界保健機関(WHO)が、新型の症状を「軽度」ではなく「中度」と評価するゆえんだ。
スペイン風邪のように、流行の第2波で病原性が強まる恐れもある。ウイルスが変異しなくても、ほとんどの人に免疫がないため、結果として死亡者が増える可能性もある。
日本は、これまでの新型対応を振り返り、教訓を生かしたい。水際対策では感染拡大は防げず、秋に予測される第2波に向け、国内の被害軽減策にいっそう力を入れる時だ。
日本では人々の関心が薄れているとの懸念もある。5月中旬に関西で高校の集団感染が明らかになった際には、警戒心が高まったが、その後、「季節性と変わらない」「ほぼ終息」との印象が広がった。
しかし、東京都や千葉県、福岡県で集団感染が起きており、感染経路のわからない患者も発生している。厚生労働省は今週、調査の強化を自治体に通知したが、感染実態をきちんと把握し、今後の対策に生かすべきだ。第2波の流行を早期探知する体制も構築しておきたい。
重症度や感染実態に応じた対策を改めて整理しておく必要もある。今は、感染拡大地域では軽症者には自宅療養を勧め、感染者が少ない地域では、軽症でも措置入院させている。だが、市中で感染が起きているなら、措置入院に感染拡大防止の意味はなくなる。むしろ、一般の医療機関でも治療できる体制を今から全国で整えた方がいい。
もちろん、その際に、重症化しやすい人たちの感染防止策は徹底しておかなくてはならない。第2波で重症度が高まった時には、対応をすばやく切り替えられるよう、準備も必要だ。
厚労省は、季節性も新型も、それなりの量のワクチンを確保できるとの試算を示している。それでも、国民全員には行き渡らない。誰に優先的に接種するか、科学的で合理性のある指針を示さなければ、国民の納得は得られない。
日本には、途上国の被害を抑える先進国としての責任もある。21世紀の科学的英知を駆使して、世界の健康被害を抑えたい。
毎日新聞 2009年6月13日 東京朝刊