麻生太郎首相は、2020年までの温室効果ガス排出削減の中期目標を、05年に比べて15%減とする方針を決めた。記者会見で、首相は「極めて野心的」と強調したが、環境保護団体や発展途上国からは期待する水準に達していないことから失望感や厳しい批判の声があがっている。物足りないと言わざるを得まい。
中期目標については、政府の検討委員会が4月に05年比で4%減から30%減までの6案を示していた。経済界は経済活動への影響を考慮して4%減程度が妥当と主張したのに対し、斉藤鉄夫環境相が21%減を求めるなど、より踏み込んだ目標設定を訴える声があった。15%減という数値は、議論の流れが大きく二つに割れる中、中間を取ったといえよう。
麻生首相は「環境と経済の両立」を訴えるが、逆に経済界からは「削減幅が大きすぎる」と、鉄鋼など製造業を中心に危機感が高まっている。一段の排出抑制に向けて、新たな設備投資の負担が迫られるからだ。負担増は家庭にも及ぶ。太陽光発電の導入などに伴うエネルギーコストの上昇により、政府の試算では1世帯当たり年間7万6千円負担が増えるという。
しかし、地球温暖化対策を取らない場合、将来への影響は深刻だ。豪雨増加による洪水や台風の強大化による高潮の被害、熱中症による死者増などによって、今世紀末の日本の被害額の増加が最大で年計約17兆円に上るとの環境省の予測がある。待ったなしの温暖化対策を新しいビジネスチャンスとして生かすとともに、世界的な競争激化が予想される省エネ・環境技術開発で、日本の技術のさらなる革新へつないでいきたい。
15%削減実現のため、検討委員会は、太陽光発電の導入量を現状の20倍にし、乗用車の新車販売の約5割、既に保有されている台数の約2割をハイブリッド車などの次世代自動車にするといった対策を示している。既に税制優遇措置や補助金制度などが実施されているが、制度の拡充などさらに思い切った施策を打ち出さねば目標達成もおぼつかない。
今回の中期目標は、今後の国際交渉に向けた第一歩となる。12月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)での合意を目指した特別作業部会などの議論の中で、日本に対して上積みが求められるかもしれない。米国や中国の交渉参加も大きな焦点だ。日本は相当な覚悟で交渉に臨む必要があろう。
世界的にも評価の高い日本の漫画やアニメ、ゲームソフトを収集、展示する「国立メディア芸術総合センター」(仮称)の計画をめぐって、野党ばかりか与党内からも中止要求が飛び出している。
「アニメの殿堂」とも呼ばれるセンターの建設費117億円を盛り込んだ2009年度補正予算は成立したものの、肝心の建設場所や展示内容などがまだ白紙に近い状態だ。11年度開館を危ぶむ声もある。
文化庁は昨年7月から有識者の検討会を設けセンターの在り方を探ってきた。日本のメディア芸術を世界に発信するための国際的拠点という狙いだ。
ところが、急激な景気悪化で大型補正予算の編成が本格化し、建設費が認められる見込みになったため、検討会は官僚が急いで作成した建設計画を了承して終わった。予算が構想よりも先行した実態を文化庁幹部も率直に認めている。
文化庁はセンターについては「4―5階建てで都内に建設」「運営は民間に委託」など概要しか示していない。国会では、漫画の原画など収蔵品の購入予算がないことや、年間運営費の試算をしていないことも発覚、野党から批判を受けた。先月の党首討論でも民主党の鳩山由紀夫代表がやり玉に挙げた。自民党の無駄遣い撲滅プロジェクトチームも政府にセンター建設計画の中止を求めている。ずさんな計画と言わざるを得まい。
塩谷立文部科学相は「建設の必要性を理解してもらうことは私たちの責任」と述べている。それなら、政府はセンターの建設理念や詳しい内容を国民に示す必要があろう。世界への情報発信、アニメやゲーム産業の振興、ひいては担い手の育成に結びつくのかなど、丁寧な説明が求められる。
(2009年6月12日掲載)