中国が初の空母建造を表明するなど海軍増強への道を急ピッチで歩んでいます。
中国は初の空母の建造を表明するなど、海軍増強への道を急ピッチで歩んでいます。石油、ガスなど天然資源の権益獲得が背景にあり、周辺諸国との緊張を高めています。
2009年3月、アメリカ海軍の音響観測艦「インペッカブル」が南シナ海で撮影した映像には、赤い中国国旗が掲げられた船が、行く手をさえぎるように異常接近する様子が映されていた。
アメリカ国務省のウッド報道官代理は3月10日、「中国の船は、アメリカの船を不適切な形で妨害した」と述べた。
アメリカのギブス報道官は「われわれの船は、明らかにこの出来事が起きた『公海』で頻繁に活動しています」と述べた。
アメリカ側は、インペッカブルの公海上での活動が妨害されたと主張した。
一方、中国は、観測艦が排他的経済水域に無許可で侵入し、活動していたと批判した。
中国の外務省は「アメリカの言い方はまったく事実に反し、事実を歪曲(わいきょく)して是非を混同しており、中国側はまったく受け入れることはできない」と述べた。
観測艦は南シナ海で一体何をしていたのか。
軍事評論家の岡部 いさく氏は「この船の任務は海中の音、特に潜水艦のスクリュー音などを集めて分析することです。この海域の北の海南島には、中国の大規模な潜水艦基地があるんです。インペッカブルはおそらく、中国の潜水艦と海域のデータを集めていたんでしょうね」と語った。
アメリカが中国の潜水艦情報を探ろうとする理由について、岡部氏は「アメリカは中国の軍事力の増強、特に海軍の拡大と活動に懸念を持っているからです」と語った。
中国・青島では事件後の4月、中国海軍創建60周年を記念する国際観艦式が開催された。
中国はここで、外国メディアに夏級弾道ミサイル原潜などを初めて公開した。
さらに、新型ミサイルフリゲート「温州」も公開するなど、集まった29カ国の海軍代表に、その透明性をアピールした。
中国海軍の呉勝利海軍司令は「平和、調和、協力の海洋は、中国海軍が今回のイベントを行うテーマと期待だ」と述べた。
しかし、中国海軍では今、「中国軍の空母保有」の計画が進行中だという。
南シナ海の事件から10日余り、中国の梁光烈国防相は日本の浜田防衛相との会談で、「永遠に(空母を)保有しないわけにはいかない」と述べたという。
事実上、空母保有の意思を公言した中国。
その空母とは、どういうものになるのか。
岡部氏は「中国初の本格空母は原子力ではないようですが、注目は搭載機ですね。『Su-33』が60機ほどになるというんです。Su-33は性能も武装も世界トップクラスですから、実現すれば、かなり強力な空母になりそうです」と語った。
さらに、空母は護衛艦をともなうため、艦隊が形成される。
すると理論上、中国は太平洋やインド洋などの広大な外洋で、空母の攻撃力を持つ艦隊活動が可能になるという。
しかし、この太平洋やインド洋は、アメリカ海軍でも最大規模の戦力を維持する第7艦隊の活動エリア。
中国の空母保有の姿勢に対し、アメリカは警戒感を隠さない。
アメリカのゲリー・ラフヘッド海軍作戦部長は「空母の用途が不明確ならば、周辺地域の国々とその海軍に懸念が広がる」と述べた。
実際、アメリカ海軍は、中国軍を極東でけん制した過去がある。
1996年、台湾の総統選挙で、中国軍は軍事演習やミサイル発射で台湾を威嚇した。
これが東シナ海で起こった、いわゆる「台湾海峡危機」。
アメリカはこの時、横須賀を母港とするインディペンデンスなどの空母艦隊を、東シナ海に急きょ派遣し、中国をけん制した。
この結果、中国は台湾への圧力をあきらめざるを得なくなったといわれる。
岡部氏は「中国は、この台湾海峡危機がトラウマになって、海軍増強に乗り出したようです。中国の潜水艦隊はアメリカ空母に対抗することを強く意識していますし、その中国が空母を保有してうまく運用できるようになったら、これはアメリカ海軍にとっても容易ならざる相手となるでしょうね」と語った。
折りしも6月、世界的研究機関は、中国の軍事費がロシアやヨーロッパ各国を抜き、アメリカに次ぐ世界第2位となったと報告している。
4月の国際観艦式の場で、胡錦涛国家主席は「中国はたとえどんなに発展しても、永遠に覇権を唱えず、軍拡競争をせず、いかなる国にも軍事的脅威にならない」と述べていた。
しかし、東シナ海ではガス田問題など、資源や権益をめぐる中国の海への膨張は続いている。
世界の海で、米中が立てる緊張の波が高まる日は来るのだろうか。
(06/13 02:01)