2009年6月12日23時45分
株や投資信託を買った人が、売り手の証券会社に損害賠償を求める事例が増えている。投資勧誘のときに、損をする危険性(リスク)について十分な説明がなかったといった理由からだ。昨秋のリーマン・ショック後の株価急落で購入者の損失が膨らんだことも影響している。
業界団体の日本証券業協会に投資家が損害賠償のあっせんを申し立てた件数は、08年度は278件。前年度より105件(61%)増え、98年にあっせんの仕組みが始まって以来の最多記録を2年続けて更新した。特に下期は上期の1.5倍以上に増えた。
目立つのは高齢者の訴えだ。協会によると、株取引で8200万円の損失が出たという86歳の男性は、勧誘でリスクの説明が欠けていたうえ無断で売買をされたと申し立てた。無断売買は認定されなかったが「申立人が認知症だった可能性が否定できず、適切さを欠いた勧誘だった」として今年3月に3400万円の賠償で和解した。
投資信託の勧誘を受けた70歳の男性の例では、「担当者が男性と面接をせず、投資経験の聞き取りやリスクの説明をしなかった」として、損失340万円のうち272万円の支払いで1月に和解した。
あっせんは、証券会社や銀行など金融商品を販売した会社と顧客とのトラブルを裁判外で解決するADR法に基づく。あっせん手続きが終わった件数は232件で、このうち賠償を含む和解が132件で、ともに過去最多だった。説明で顧客に誤解を与えるなど「勧誘」に関する申し立てが全体の7割を占めている。
あっせんに至らなかった例も合わせたセンターへの苦情の総件数は966件。前年より193件増え、山一証券が自主廃業した97年度以来11年ぶりの多さだった。(木村和規)