ツレがうつになりまして。 ドラマのみどころ

スタッフからのメッセージをお届けします。

ドラマのみどころ

制作・演出にあたって

…制作統括・演出(第1回):合津直枝(テレビマンユニオン)

 新聞や週刊誌で「うつ」の文字を見ない日はありません。日本でも「うつ病」患者は100万人を超えたそうです。長引く不況、過労、人間関係…現代社会はストレスに満ち溢れ、「うつ」は、いつ誰が発症しておかしくない状況です。

 原作「ツレがうつになりまして。」は、スーパーサラリーマンだった夫(ツレ)の「うつ病」を、売れない漫画家だった妻が介護するコミックエッセイです。

 一昔前だったらなかなか周囲に打ち明けられなかった「病」を、原作者夫妻は敢えてカミングアウト、「うつ」患者の心の在り様から介護する側の戸惑いから攻略法まで、暖かいタッチで描かれています。

 「いま、テレビで是非ともやるべき企画だ」と確信しました。

 最近では「うつ病」の種類も複雑になってきて、症状も一様ではないので、これを見れば、「うつがわかる」とか「うつが治る」というものではありません。

 しかし、成果主義が蔓延する今、ドラマにも登場する「あ」「と」「で」は、いまを生きるヒントになるかもしれない、と思います。「あ」は「焦らない」、「と」は「(自分を)特別扱いしない」、「で」は「できることからやる」。「あ」「と」「で」は「後で」にも通じます。

 特急列車に乗るより、時には車窓の風景を愛でながら各駅停車で行ってみようか…と。

 加えて、世間の「うつ」への理解が深まる助けになれば…と念じてやみません。

演出にあたって

…演出(第2回・第3回):佐藤善木(テレビマンユニオン)

 「うつ病」という、ひとつの逆境を乗り越えて成長していく男女、夫婦の物語にしたいと思っています。

 原作者ご夫妻に話をうかがったところ、発病以前はむしろ、漫画家としてなかなか芽の出ない奥様を、ご主人のツレさんが「いつかキミの才能が認められる日が来るよ」と励まし、精神的に支え続けるという間柄にあったそうです。

 そんな頼りがいのあるツレが、ある日うつ病に倒れてしまった…。

 しかしその逆境を、ご夫妻はとてもユニークなやり方で乗り越えていかれたのです。私はそのことに深い感動を覚え、是非そのことをドラマの主題に据えたいと思いました。

  「苦しみはつらさとなり、つらさは心の痛みとなり、でもそれが最後には笑顔につながった」。これはWBC優勝時のイチロー選手のコメントですが、このドラマの読後感もそのようなものにできたらと思っています。冬の厳しさを乗り越えてこそ開けてくる、人生の春。そこにたどりついた二人の物語を描ききりたいと思っています。

ドラマ化に寄せて

…原作者・細川貂々

 今年も桜が咲いています。

 五年前、桜満開の季節の頃のことを思い出します。ちょうどうちのツレが会社を辞めてから一ヶ月、寝て起きて細々と食べているだけなのに、ちっとも病気が良くならないと不安でした。明るい春の光がふりそそいでいるのに、うちだけには光が届かないように感じられていたものです。

 そして三年前、ツレの病気が良くなってきて、闘病の本を出しました。大きな世界の中で、ちっぽけな二人が「ここにいるんだよ」と声を上げて主張することができたかな、と思いました。その年の桜は優しく咲いていました。

 今年。三年前に出した『ツレがうつになりまして。』がドラマ化されるというお知らせが届きました。五年前と同じように桜は咲いているけれど、ツレの病気も良くなり、一歳になったコドモまでいるのです。とてもとても不思議な気持ちです。

 今も五年前の私たちと同じように、春の光が届かない暗闇の中でつらい思いをしている人たちがいるはずです。闘病は本人も家族もとてもつらいです。だけど、病気のある日常も、人の一生の中で特別なものではありません。そのつらい時間が流れ流れて、本人たちには思いもよらなかったところへと連れて行かれていくのだと思います。

 このドラマが、桜の花のように人々の心に沁みていくことを期待します。

「ツレがうつになりまして。」脚本執筆にあたって

…脚本家・森岡利行

 私の知人(主婦)のツレ(夫)も「うつ」です。

 ある日、そのツレはどこかの屋上から電話してきて、「迷惑かけてごめんね……もういなくなるから」と言いました。知人は慌てず、叫びたい衝動を抑え、落ち着いた優しい声で「帰ってくるンでしょ……ご飯作って待ってるからね」と言い、震えながら電話を切りました。ツレは「自分は必要とされている人間だ」と思い、ビルから飛び降りるのを止めたそうです。

 現在もそのツレは何かの拍子に発作を起こし、会社の人に家まで連れられて帰ってきたりするそうで、知人は気苦労が絶えません。

 その知人がこのドラマの原作となった細川貂々さんのコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』にはたいへん助けられたと言っておりました。

 「うつ」の本はたくさんあるのですが、医学用語が多く、文章も難解でフツウの主婦には読みづらいものなのでしょう。知人が「貂々さんに会いに行ってお礼が言いたいくらいッ!」と叫んでおりましたので、この場を借りて私が代わりにお礼を言います。

 「貂々さん、ツレさん、素敵な原作を、ありがとうございます!」

 原作の良さが、ドラマでも表現出来ればという気持ちで脚本に臨みました。

 そして、現在、「うつ」という病気にかかっている人も、そうでない人も、貂々さん、ツレさん夫妻が子供のように可愛がっているイグアナのイグに心を癒されたように、ドラマを見て、ほんのちょっぴりでも心を癒していただければ、幸いです。

【原作】細川貂々「ツレがうつになりまして。」「その後のツレがうつになりまして。」(幻冬舎文庫)
ホームページで使用されているイラストは、全て上記原作より転載したものです。