きょうの社説 2009年6月12日

◎株価一時1万円回復 「現実買い」へ移行できるか
 期待感の高まりから、先回りして株式が買われることを「理想買い」という。金融危機 後の最安値からわずか3カ月で4割上昇した日本株は今、ちょっとした「ミニバブル」のなかで、そんな理想買いの局面を迎えているのかもしれない。

 平均株価の一時1万円台回復をけん引したのは、鉄鋼や非鉄、石油などの市況関連株、 銀行や証券などの金融株である。リーマン・ショック後、売りたたかれた業種で、これまで戻りが鈍かった。各国の金融緩和政策や大規模な財政支出による過剰流動性がリスク資産に流れ込み、新興国市場の株高、原油などの商品市況高を引き起こしている。その大きな潮流のなかで、日本株にも買いが入っているとみて良いのではないか。

 背景にあるのは、大型の経済対策を成立させた日本の景気回復への期待であり、日本経 済の足腰の強さ、技術力への信頼である。エコカーや太陽光発電、省エネ家電といった日本が強い分野が今、注目されている有利さもある。

 ただ、日本経済の現実は、坂道を転げ落ちるような状況にやっとブレーキがかかった程 度であって、まだ回復の道筋はみえていない。日本株が「理想買い」の状況から、技術革新や業績回復などの裏付けがあって買われる「現実買い」に移行できるかどうか、正念場はこれからである。

 夏場にかけて製造業の減産ペースが緩和し、政府の追加経済対策が効いてくるだろう。 厳しい収益環境が続くなか、企業の設備投資はどこまで戻るのか。エコカー減税や買い換え・購入に対する補助制度、省エネ家電のエコポイント制度など、消費喚起の施策は、家計所得の落ち込みや雇用環境の悪化といったマイナス材料を打ち消すだけの効き目があるか。個人消費の底堅さが確認されれば、株価はもう一段上を目指すはずだ。

 アジア市場は復調の兆しが見えるものの、欧米市場は鈍い。米国は財政赤字への懸念で 金利の上昇圧力が強く、大きな不安材料だ。市場は景気回復の期待感がかなり先行している印象だけに、ちょっとした強弱感の対立で、株価が乱高下する局面もあるだろう。

◎小松−静岡便 都市連携を需要の支えに
 7月の小松〜静岡便就航に伴い、金沢、静岡市が締結する交流連携協定は、路線需要を 開拓するうえでも必要な取り組みである。航空便で結ばれる2つの地域の中心都市が手を組み、幅広い分野で交流を深めれば、路線の下支えだけでなく、それぞれの都市の活性化にもプラスになる。

 昨年開通した東海北陸自動車道や2014年度末までの北陸新幹線開業に合わせ、金沢 市は沿線各都市と協定を結んできたが、空の便でも地域間交流の主役はそれぞれの拠点都市である。金沢、静岡両市は風土や文化も異なり、観光需要の創出やビジネス拡大などで一定の成果が見込めるだろう。せっかく地方同士を結ぶ路線である。都市連携を基軸にして相互の交流を県全体、さらには北陸、東海地方へと波及させたい。

 小松空港の国内便は羽田、札幌、仙台、福岡、沖縄、成田の6便があり、静岡便は久々 の地方路線となる。地域航空会社「フジドリームエアラインズ」が1日2便、76人乗りの小型機を運航する。

 国内の航空業界では、羽田への一極集中や機材の大型化が進み、航空会社が地方路線を 削減する流れが強まるなかで、低コストの小型機は今後、地方空港間の主役になる可能性がある。北陸新幹線開業に伴い、いずれ羽田便の需要減が避けられない小松空港にとっても、静岡便は小型機による地方路線確保の試金石となる。

 石川、静岡県は小松、静岡両空港の海外誘客拡大へ向けた検討を始めたほか、金沢市は 静岡市との協定のほか、両空港に路線のある那覇市も含めた「トライアングル協定」も目指す。能登空港の羽田便を地元自治体が支えるように、小松空港の路線維持でも金沢市が果たすべき役割は極めて大きい。

 静岡空港は民間専用では離島を除き最後の地方空港とされ、「1県1空港」を推進して きた国にとっては空港整備から空港を生かす政策への転換が求められている。乗継便の普及や空港経営の在り方の見直しなどを含め、地方間の空のネットワークが成り立つような仕組みを国、自治体、航空会社が一体となって考えるときである。