Book オバマ守護霊インタビュー
(「ザ・リバティ」編集部編、幸福の科学出版、2009)

 昨年出版された本人の肉声CD付きブックレット『オバマ演説集』(朝日出版社)は、版元の予想を超えた大ヒットとなりました。英会話の教材にと企画されたそうですが、バラク・オバマ氏の若さと力強さにあふれた名調子が読者を惹き付け奮い立たせると、英語に興味のない人にまで支持されました。筆者もオバマ氏を一躍スターにした2004年民主党大会での名演説“One America”を耳にして、感動に打ち震えたひとりです(英語できないのに)。

 オバマ氏が今年1月、第44代アメリカ合衆国大統領に就任すると、類似の本が雨後の筍のように書店にあふれました。就任演説のCDも付き、装丁もほとんど似たものですが、二匹目のどじょうはなかなかいないようで、ベストセラーになったという話は耳にしません。他にもオバマ氏に材を取った便乗本が多く出て、書店の平台を占拠しました。

 ですから、こんな本が出版されていたことは知りませんでした。自称・芸能研究家としてまったく恥ずかしい限りです。体裁こそオバマ便乗本とそっくりですが、中身が相当に異なる奇書、『オバマ守護霊インタビュー』(幸福の科学出版)です。

 インタビューは2008年11月に幸福の科学・大川隆法総裁が「守護霊に訊いてしまったほうが早いから」(大川隆法『朝の来ない夜はない』幸福の科学出版、2009、p.142)と守護霊を呼び出して行われ、幸福の科学出版の雑誌「ザ・リバティ」2008年11月30日発売号に掲載されたものの再録です。和英対訳というのが凝っています。サブタイトルは何と、「日本は邪悪な国である」

――オバマさん、オバマさん(の守護霊)、いらっしゃいますか?
 はい。
――日本語は話せますか?
 いいえ。
――片言の日本語もダメですか?
 難しい。
――では、英語でやってみますね。
 ああ、オッケー。

 こんなくだけた調子でインタビューは始まります。中学生レベルの英単語が並んだ会話は、簡潔明瞭に自説を伝えようとするオバマ氏の戦略がうかがえます。決して編集者の英語が中学生レベルだからではありません。肝心の日本とアメリカとの関係について見てみましょう。

 うーん、日本ね……。彼らはもう十分です。彼らは幸福です。十分幸福に暮らしているのだから、これ以上豊かになろうとするのはやめるべきでしょう。もう十分(中略)。
(Hmm…Japan…they'er enough.They are happy.They live happily enough,so they should relinquish to seek for wealth.It's enough.)

 ……オバマ(の守護霊)さん、もうちょっとやる気出してください。この短いセンテンスに「十分enough)」という単語が3つも出てくるのですから、何ともいい加減です。同じ文章中には自衛隊のことも出てきて、そこにも「もう十分強いはずなのですから(They are now strong enough.)」と、また「もう十分」と問題を放り出しています。

 そう、日本は、日本人は卑怯な国民だと思う。ハワイを奇襲攻撃した。嫌いですね。卑怯な国民です。彼らは性格が邪悪だから、対等の協力相手にはなり得ない。単なるアジアの強国のひとつだと思います。
(Yeah,Japan,Japanese people is a sneaky people,I think.They did sneak attack in the Hawaii Island.Ihate that.They are sneak people.Their tendency is evil,so they cannot be equal partner.One of the country,one of the Asian strong country,I think.)

 あの、大川さん、じゃなかったオバマさん。こんな日米同盟を根底からひっくり返すようなこと言っちゃあダメですよ。本人ではなく守護霊の発言とはいえ、「潜在意識の一部」であり、「長期的には地上の人間の考え方や行動に影響を与えることになる」(同書編集者による解説)のですから。他にもアジア諸国や新興工業国については、

 台湾は小さな島です。中台問題のためにアメリカの軍事力を使うことはできません。私たちは中立でなければなりません。(推移を)ただ見ているだけです。彼ら(中台)は話し合うべきです。これは彼らの問題です。台湾が中国の一部であるかどうかは、アメリカの問題ではありません。彼らの問題です。
 (引用者注・南北朝鮮の問題は)(南北)朝鮮人の問題だと思いますね。彼らが互いに話し合い、彼ら自身で決めるべきです。北朝鮮と韓国の首脳と国民が、そういった長期にわたる問題に関して議論すべきです。(中略)

 (引用者注・北朝鮮の核武装・軍拡について)小さな国です。無視できる大きさです。北朝鮮はアメリカを攻撃できません。

 (引用者注・北朝鮮が日本を武力攻撃したら)ああ、彼らの問題です。日本が何らかの……報復をすべきでしょう。自衛隊があるのだから、自分でできるでしょう。報復するかどうかは日本の問題、日本人の問題です。アメリカには何の責任もない。日本の問題です。
 ブリックス?(中略)そうですね、私の中では、位置付けは日本と同じようなものです。

 完無視かよっ!!!

 いくらオバマ氏が外交が苦手だからといって、アジアの平和と安定に無関心なのはいかがなものでしょうか。他にもイラク戦争について「軍隊を撤退させたいと思っています。そして軍事予算を縮小したいと考えています」とか、「だから将来、アメリカは「世界の警察」ではなくなります」なんて、一見すると左派勢力が喜びそうで、実のところ何も考えてないだけという発言も見られます。

 ならばオバマ氏(の守護霊)は外交政策に無策かというと、そうでもなく、以下の発言に明確に現れています。

 中国は偉大な国です。長い長い歴史を持ち、国土も広大な国です。中国の人たちとは友好的でなくてはなりません。中国とは緊密な友好関係を結ぶべきです。私は中国の首脳とホットラインで結んで話し合い、世界の方向性をつくりあげいていきたいと考えています。それが世界の問題を解決するための、非常に簡単かつ直ちに実行できる方法です。私は中国首脳と良き友人になることを目指しています。偉大な国だと思います。

 こんな、産経新聞の記者が目にしたら、怒りのあまり卒倒しそうな「媚中」発言が次々と掲載されています。

――中国はこの20年間軍拡を続けている。核兵器の問題もあり……。
 それはかまわない。
――構わない!?
 中国は巨大な国家です。彼らには軍事的に敵対する国があり、もちろん軍事力が必要です。周辺には悪い国がたくさんある。ロシア軍や日本軍や他の国々。インドもそうです。強国に囲まれているわけだから、防衛が必要です。中国がアメリカを攻撃しなければそれで構わない。私たちには米中の同盟が必要です。軍事同盟が必須となるでしょう。
――日本が米軍に支援を求めたら、助けますか?
 いや、助けません。私には中国が必要です。中国に北朝鮮を説得するように頼む。それだけです。

 米中同盟強化の必要性をさかんに口にするアメリカ大統領(の守護霊)。大川総裁や「ザ・リバティ」の編集者がオバマ政権をどうとらえているかは、同書や大川氏の著書を参照してもらいたいのですが、インタビューの終盤、こんなやりとりがありました。

 (前略)近い将来、暗殺されるのではないかと心配です。怖いですね。(中略)まあ、その時はその時で、天国で天使になれるから構いません。
 ケネディもリンカーンもマーチン・ルーサー・キング牧師も暗殺されました。私もそうなりたい。そうなれば私の名前は金板に刻まれて、そう、人々の記憶に永遠に残る。私は、そんな有名なアメリカ大統領になりたい。リンカーンを超えたいのです。(太字は引用者)

 再び書きますが、守護霊とは、「本人の潜在意識の一部」であり、しかし、「長期的には地上の人間の考え方や行動に影響を与えることになる。」

 オバマ氏が暗殺されることを望んでいるのは、果たして本人の守護霊(潜在意識の一部)なのか、それとも他の誰かなのか……?その答えは間もなくわかるでしょう。(なんと次回へ続く!)
(2009.5.24)

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