2009年6月11日23時42分
約100匹のオタマジャクシが見つかった中島市民センター(後方)近くの水田でエサを探すアオサギ=10日、石川県七尾市中島町、大畠正吾撮影
車のフロントガラスに落ちたオタマジャクシ=4日、石川県七尾市の市中島市民センター、同センター提供
中島市民センターに落ちていたオタマジャクシ。脚が出かかっている=4日夕、石川県七尾市中島町中島、同センター提供
落ちてきたとみられる小魚を手にする近江幸雄さん=10日、石川県中能登町能登部上、大畠正吾撮影
樋口広芳・東京大教授(鳥類学)はカラス説を推す。口の奥にある「袋」に丸のみにしたオタマジャクシをため込み、運ぶ途中や巣の上で落としたとも考えられるという。カラスは今が繁殖期。「あちこちで子育てしており、オタマジャクシが離れた複数の場所で見つかっても不思議ではない。カラスなら一応の説明は付く」
一方で、菊池聡・信州大准教授(認知心理学)は「ミステリーサークルのように、単なるいたずらの可能性もあるのでは」。世界各地の畑に突然現れた幾何学模様を巡って、様々な科学的議論が重ねられたが、結局その多くはいたずらだった。
「誰かを驚かせ、注目を集めたいというのは人の自然な感情。今後、『便乗事例』が出てくるかもしれない」と話している。
地元でもなぞ解きで盛り上がっている。有力になっているのがアオサギだ。オタマジャクシが見つかった中島市民センターの周囲では、水田にアオサギ3、4羽が飛来し、えさを探している。サギもこの時期子育て中で、巣立つ前のヒナには原形をとどめたままのエサを食べさせるという。
サギ類の研究が長い「兵庫県立人と自然の博物館」(三田市)の研究員、遠藤菜緒子さん(35)は、アオサギより小さなサギがドジョウ89匹を食べていた例もあるという。
「北海道アオサギ研究会」の松長克利(かつとし)代表(43)は「敵に襲われたりしたアオサギが、オタマジャクシを食べ過ぎて窒息気味になったりして、吐きだしてしまったのではないか。今年は雨不足で(水田で)オタマジャクシや小魚が捕獲しやすい状況になり、能登の各地で同様のことが起きたのでは」と推測する。
今回のように空から魚が降る場面が、村上春樹さんの長編小説「海辺のカフカ」に登場する。「何の前触れもなく、おおよそ2000匹に及ぶ数の魚が、雲のあいだからどっと落ちてきたのだ」。降ったのはイワシとアジ。別の場面ではヒルも降る。
村上さんの作品に詳しい沼野充義・東大教授は「作品は終盤で現実と異世界を行き来する展開になる。その予兆として描いたのではないか」と指摘。石川での「珍事」については、「合理的な説明がつかないほうが、楽しめるのでは」と話した。