憲法改正原案を審議する衆院審査会の規程が与党の賛成多数で決まった。憲法問題は党派を超えて落ち着いた環境で議論すべき課題だ。無用な混乱をもたらす、総選挙前の駆け込み処理は疑問だ。
憲法審査会は二〇〇七年、憲法改正手続きを定めた国民投票法が成立したことを受け、衆参両院に設置された。憲法改正原案が国会に提出されれば審査などに当たるが、三年間は改憲原案の提出や審査は凍結されており、憲法問題に関する調査を行うとしている。
しかし、両院に設置はされたものの、休眠状態が続いていた。審査会の委員数や議事手続きを定める規程をつくることに、野党が応じてこなかったからだ。
最大の理由は、国民投票法の採決で与党が採決を強行したことにある。当時の安倍晋三首相は憲法改正を参院選の重要争点に掲げ、実績アピールへ「数の力」に頼った。民主党はこれまでの憲法問題をめぐる信頼関係が壊された、と態度を硬化させて今日に至る。
今回、与党が規程制定に踏み切ったのは「立法府の不作為状態をこれ以上続けてはならない」との理由からという。だが、強引な手法を取った反省もあいまいなままに、再び同じような強硬策を取るのは乱暴ではないか。
民主党の枝野幸男元衆院憲法調査会長代理は衆院議院運営委員会の意見聴取に「途絶えた信頼関係をまずは回復させることが大前提だ」と提案していた。与党はなぜ耳を傾けなかったのか。
野党側からの理解が得られないまま、憲法を論議する舞台やそのルールを一方的に決めるのは厳に慎むべきである。
改憲論にせよ、護憲論にせよ、憲法の在り方について、国会で議論を深めることは本来好ましいことだ。ただし、それも、与野党間に信頼関係があってのことである。相互不信のもとでは、審査会が有効に機能するはずもない。
野党が多数を握る参院では、審査会の規程が制定されるメドは立っていない。「国の最高法規」である憲法問題をめぐって、衆参両院で足並みがそろわないというのは、何とも不自然である。この観点からしても、衆院の決定が拙速すぎるのは明らかだ。
総選挙が近い。与党が衆院で多数を占めているうちに、強引に進めようということなら姑息(こそく)と言われても仕方あるまい。郵政民営化を唯一の争点とした〇五年総選挙で得た議席なのだから。
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