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社説:「西松」民主報告 これで終わりにするな

 やはり小沢一郎代表代行(前代表)に配慮した中身ではないか。民主党が西松建設事件の検証を委ねた学者らによる第三者委員会が最終報告書をまとめた。小沢氏の公設秘書起訴をめぐる経緯についてかなりの分量を検察・メディア批判に割き、党の一連の対応については「危機管理の失敗」と結論づけた。

 西松事件の捜査に関しては、さまざまな議論があることは事実だ。しかし、小沢氏が国民から強い批判を招いた本質はダミー政治団体から巨額の献金を受けながら、そのことに納得できる説明をしなかった点だ。検察、報道批判を強調した報告書に違和感を感じざるを得ない。

 委員会は4月、小沢氏の代表辞任問題が焦点となる中で発足した。報告で目立ったくだりは検察批判だ。小沢氏秘書を立件した捜査について「多くの点で疑念がある」と指摘した。小沢氏秘書の政治資金規正法違反をめぐる事実関係や黒白はあくまで司法の場で判断されるべきで、委員会が立件そのものを疑問視して中立的な議論と言えるだろうか。さらに無視できないのは「法相は、高度の政治的配慮から指揮権を発動する選択肢もあり得た」と言及した点だ。恣意(しい)的な捜査をむしろ助長しかねない論法であり、適切さを欠く。

 また、検察捜査について自民党議員との取り扱いをめぐる公平性にも疑念を示した。この点は私たちも与野党を問わず捜査を徹底するよう、検察当局に重ねて注文している。だが、小沢氏の場合、政権交代をうかがう野党党首が巨額の献金を受けながらその経緯を「せんさくしない」と述べるなど、説明責任を果たさない点に最大の問題があった。小沢氏に関しては党内からも献金の使途を明確にするよう促す声がある。第三者委は「もっと積極的にマスコミに訴えかける姿勢があってよかった」としたが、小沢氏への聴取でも踏み込んだ説明があったとは言い難い。

 報道についてはNHKや産経新聞の事例を個別に批判し、全般的に検察情報依存を指摘した。メディアが慎重に裏付けを進め報じるべきことは当然だ。だが、一連の事件報道について「記者クラブに象徴される当局と報道機関の不透明な関係」を背景とするのは明らかに行き過ぎだ。

 民主党は事件を受けて企業・団体献金を3年後に全面禁止する規制強化に合意した。このことは評価できる。ただ、報告書のように党の対応を「政治家個人としての小沢氏と政党の党首としての立場を切り離さなかった」危機管理の失敗と片づけては、問題を矮小(わいしょう)化する。小沢氏問題をどう説明するかは民主党が越えねばならぬハードルだ。これで幕引きにしてはならない。

毎日新聞 2009年6月12日 東京朝刊

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