「患者のためになる、あらゆる手を尽くします」「プライバシーを守ります」--。米欧の医大では、医師が従うべき倫理を卒業式で誓う。「ヒポクラテスの誓い」と呼ばれるものだ。
先週ハーバード大で、これにならった「誓い」があった。「最大の誠意と倫理観をもって働きます」「自分の狭い野心に走り社会を害するようなことはしません」--。誓ったのはMBA(経営学修士)を取った卒業生たち。ハーバード・ビジネススクール101年の歴史で初めてのことらしい。でも今さら何で?
大不況の発端は金融危機。犯人はウォール街の強欲者。彼らを送り出してきたのはビジネススクール。その元祖がハーバード。世間の目は100年に1度の厳しさなのだ。
注目したいのは、卒業生の発案だということ。「25年後の同窓会で、それまでいくら稼いだかとかじゃなく、世の中をどれだけよくしたかで評価される同期になろうよ」。発起人マックス・アンダーソンさんの呼びかけの言葉だ。
800人が応えた。「卒業生の過半数」の目標をクリアしたうえ他校のMBAも続々と参加。宣誓者リストは卒業式後の今も伸びている。
「だけど結局、みんなヘッジファンドとかで稼ぐんでしょ?」。テレビのインタビュアーは「うそっぽいや」と言いたげだったけれど、アンダーソンさんは結婚式の誓いに例え意義を訴える。「守られる保証はなくても、みんなが誓いの力を信じている」
危機の再発防止にはどんな規制が必要か、専門家が細かい議論をしている。けれど規制には限界がある。若い一人一人に芽生えた志が連鎖して良い方向に動き出すとすれば、それが本当は一番いい。
毎日新聞 2009年6月12日 0時02分
6月12日 | 誓います=福本容子 |
6月11日 | 何をしないか競争=与良正男 |
6月10日 | 24時間の犠牲=磯崎由美 |
6月9日 | 偏見=玉木研二 |
6月8日 | 欧州のモスク=福島良典 |