政府は経済財政政策の指針となる「骨太の方針2009」の素案をまとめた。与党との調整を経て23日に正式決定する。
麻生政権が手掛ける初の骨太方針である。2010年度予算編成の土台となるほか、次期衆院選の政権公約(マニフェスト)にも関係するだけに、その内容が注目された。
最大の焦点は、財政健全化への取り組み姿勢だった。世界的な景気後退による税収減と大規模な経済対策で、急激に財政状況が悪化しているからだ。
素案は従来目指していた財政健全化の時期を10年程度先送りするとともに、新たな再建目標を打ち出した。要するにこれまでの目標達成が困難になったため、別の物差しを設定して頑張ろうという図式である。追い込まれた末の苦肉の策と言われても仕方あるまい。
新目標は、国内総生産(GDP)に対する国と地方の債務残高の比率を20年代初めに引き下げることを基本とした。この比率は09年度末で160%を超える見込みで、先進国の中で最悪の水準となっている。
従来は基礎的財政収支の黒字化を目標に掲げていた。借金に過度に頼らず予算編成できているかを見る指標である。今回の素案ではこの目標を完全に撤回せず、黒字化の達成時期を「11年度」から、19年度までを示す「今後10年以内」に先延ばしするとした。
未曾有の不況に対し、国や地方による思い切った経済対策はやむを得ない面がある。財政健全化の道が遠のいたのは残念だが、何らかの再建目標は必要だろう。
だが、新目標の説得力は乏しいと言わざるを得ない。目標到達に向け、歳出カットや財源対策をどう進めるかという具体的な道筋が明確でないためだ。
社会保障費の2200億円抑制など小泉政権以来の歳出削減方針については「継続」と触れるにとどめ、与党などの歳出圧力の高まりに配慮している。
財源問題では同時に示した財政試算で、目標達成には17年度までに消費税率を段階的に12%程度に引き上げることが避けられないとの見通しを明らかにした。骨太素案には盛り込まず、別の形で必要性を示唆する細工を施したとされる。衆院選が近いからだろう。
高齢化が進み、社会保障費などが膨らむのは確実だ。どんな財政目標になろうとも、国民の痛みも含めた将来ビジョンを正面から提示できなければ理解は得られまい。
東広島市にある広島少年院の法務教官4人が、特別公務員暴行陵虐容疑で広島地検に逮捕された。収容少年に暴行していた疑いが持たれている。
広島地検は「極めて悪質」として動機などを調べる。4人の逮捕容疑は、昨年3月から今年3月にかけ、少年院の寮などで収容少年の胸ぐらをつかんで殴ったことに反論され「じゃあ死ね」と馬乗りになって首を絞めたり、トイレに行かせず失禁させたりした。地検によると、逮捕された4人は容疑を認めているという。
暴行問題が発覚したのは今年4月だった。収容少年の一人が少年院側に申し出た。法務省広島矯正管区が内部調査を進め、刑事告発した。
広島矯正管区が5月に発表した内部調査の中間報告では、法務教官35人のうち、逮捕された4人を含む数人が暴行に関与し、少年への暴行は2008年度だけで約100件に上り、収容定員の半数の約50人が被害に遭っていた。暴行が常態化していた可能性が強い。
少年の矯正教育に当たる法務教官が、なぜ陰湿な暴力を繰り返していたのか。防げなかった組織のどこに問題があったのか。実態の解明が重要だ。
法務省矯正局は事態を重くみて広島少年院を除く全国の少年院に収容されている少年約3600人全員を対象に、処遇上の問題がないかアンケートを始めた。質問事項への回答を実名で求め、少年院では開封せず各矯正管区に返送させる。
調査結果を踏まえて総合的な再発防止策を講じるとするが、収容少年の申し立て制度の充実や、有識者ら外部の目の導入など少年院運営の透明性の向上、教官に対する積極的な人権教育が欠かせまい。矯正行政全般の見直しが必要だろう。
(2009年6月11日掲載)