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辻井伸行さん:感性と自由がはぐくんだ音 ピアノコン優勝

 幼いころ、母の歌に合わせてピアノで「ジングルベル」を弾いた全盲の少年が、ついに国際コンクールのトップに上りつめた。最初の一音で聴衆の心をとらえてしまう繊細で豊かな音楽は、「ピアノを弾くのが楽しくてしかたがない」という辻井さんが多くの人と交わす、耳を通した対話なのだろう。どのような大舞台でもあがるどころか、お客さんが多いほど燃える。そんな天性の演奏家向きの資質が今回も大きな力を発揮した。

 目の見えない辻井さんに母のいつ子さんが「りんごは赤、バナナは黄色」と教えると「じゃあ、今日の風の色は何色?」と聞いたという。その感性を大事に育てようと、両親やピアノ教師は、辻井さんに過酷な練習を強いるよりは、自由に好きなものを弾かせる教育方針をとった。

 辻井さんの最大の能力は、どんな複雑な曲でも耳で聴いて完全に覚えてしまうこと。クライバーン・コンクールではアンサンブルの能力も試される。目の不自由な人は目による合図ができないため、他人と合わせることが苦手になりがち。だが、すべての音を覚えてしまう辻井さんは完ぺきにこなしていた。

 その能力について、やはり全盲のバイオリニストの和波孝禧さんは「驚異的。自分で何かを表現しようと一心不乱に集中していく力がすごい」と絶賛する。

 辻井さんは誰からもかわいがられる人なつっこい性格。和波さんは「大変なキャリアを得たのだから、障害者であることに甘えずに、さらに自分と音楽とを磨いてほしい」と先輩としてエールを送った。【梅津時比古】

毎日新聞 2009年6月8日 14時56分

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