新型の豚インフルエンザの警戒レベル引き上げ問題を話し合う世界保健機関(WHO)の緊急委員会が11日正午(日本時間同日午後7時)すぎ、開かれた。会合では、現行のフェーズ5から、世界的大流行(パンデミック)の宣言を意味する最高度のフェーズ6に上げることで一致した。これを受けてWHOが引き上げを決定し、加盟各国に伝えた。
人類は20世紀にインフルエンザの世界的大流行を3度経験した。今回、21世紀初の大流行を認めたことになり、1968〜70年の香港風邪以来、41年ぶりになる。
WHOの基準では、すでに感染が広がっている米州地域以外の1カ国で「地域社会レベルの人から人への持続的感染」が確認されれば、フェーズ6の要件が満たされる。
冬を迎えている南半球では6月に入って以降、感染の拡大が著しく、11日現在で豪州は1307人、8日現在で南米チリは1694人の感染者が確認されている。特に、感染者が1千人を超えた豪州ビクトリア州で、人から人への持続的感染が起きていると確認されたことが、フェーズを上げる決定要因となった。
WHOが確認した世界の感染者は10日朝現在で75カ国・地域の2万7737人。大半は軽症で済んでいるが、死者は141人になっている。
WHOは、新型インフルエンザが各国にもたらす影響の大きさを示す「重症度」は「中等度」であると評価した。「軽度」としなかったのは、「メキシコで死亡、重症化した人の半数は、持病もない健康な若者だったことなどを考慮に入れたためだ」(ケイジ・フクダ事務局長補)という。
ただし、WHOの警戒レベルに基づき、どの程度の対策をとるか決めている国も少なくない。WHOがフェーズ6を宣言した場合、国によっては移動や集会の制限などを検討する可能性があり、市民生活や世界経済などに影響が出かねない。
このためWHOは過剰反応を戒めており、「渡航・貿易制限や国境閉鎖はすべきではない」と改めて勧告する。
各国政府に対しては、状況に応じて、感染拡大防止から、医薬品以外の対処方法を含めた感染症状の緩和策にシフトさせていくべきだとも勧告するようだ。
WHOは、医療態勢が整備されておらず、医薬品も十分にないアフリカなどの途上国で今後、感染の影響がどのように出るか最も心配している。これまでに抗ウイルス薬やワクチンメーカーと何度となく会合を開き、途上国への提供について議論してきた。
「季節性インフルエンザワクチンの製造は間もなく終了し、今後数カ月の間に新型インフルワクチンを可能な限り多く供給ができるような製造態勢を取ることができるようになるだろう」としている。
厚生労働省の担当者は11日、フェーズ6宣言を受けた場合の対応について、「これまでの(政府の)方針に沿って、感染拡大防止に努める」とし、現状では国内対策の警戒レベル引き上げは考えていないことを明らかにした。(浅井文和・編集委員、大岩ゆり、ジュネーブ=飯竹恒一)