ピコ通信/第96号
発行日2006年8月25日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. バッテリー工場周辺の鉛汚染/冨田 重行(高槻・市民自主講座)
  2. 環境省/環境ホルモン問題平成18年度第1回ExTEND2005
    リスクコミュニケーション推進検討会傍聴記
  3. 環境省「平成16年度本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書」公表
  4. 本紙94号「集合住宅の補修工事で一時避難/今度は 近くのバラ園の農薬散布に苦しむCS家族」の続報
  5. 化学物質問題の動き(06.07.26〜06.08.24)
  6. お知らせ・編集後記


バッテリー工場周辺の鉛汚染
冨田 重行(高槻・市民自主講座)

■鉛のガイドライン

 鉛は、毒性金属である。最近では、鉛の神経科学的毒性や環境ホルモン様作用などが明らかになり、乳幼児の血中鉛濃度のガイドラインはどんどんと引き下げられてきた。

図1 血中鉛のガイドラインの変遷(Mushak原図に加工)

■ユアサ工場周辺鉛汚染調査

 大阪府高槻市の(旧)湯浅電池はJR高槻駅に隣接して、1918年に創業され、2003年の工場閉鎖まで約90年にわたって鉛蓄電池などの生産を行ってきた。現在はGSと合併してジーエス・ユアサコーポレーション(GS・YUASA)となり、鉛蓄電池のシェアは世界の13%を占めている。市内3地区にわたって立地していた高槻工場はすでに閉鎖・廃止され、亀岡市の新工場に移った。
 工場の廃止前後から、土壌汚染対策法などに基づく敷地汚染調査が行われ、3地区の工場敷地ほぼ全域が鉛や水銀、ヒ素、トリクロロエチレンなどによって汚染していることが判明した。なかでも重金属汚染の一番ひどいのが創業当初から使われていた白梅工場で、土壌鉛含有量が36,000ppm(これは3.6%になる)という最高濃度を検出した。
 高槻市民にとっての問題は、これほどひどく工場敷地が汚染しているのに、塀一枚外側には汚染が無いとユアサが言い続けていることだ。市民の健康を守る責務を有する高槻市行政当局も同調して外部に汚染はないと言ってきた。
 私たち高槻・市民自主講座は、「周辺汚染がないというのはおかしい、周辺も調査を行え、汚染がないと言うのは調査してからにしろ」と主張してきたが、一貫して拒否されてきた。
 私たちは、工場が跡形もなくなる前に、何カ所か周辺の鉛濃度を調べて、これだけ汚染があったということを記録にとどめておくだけでも意義があるだろうと、調査を行うことにした。工場近くの土壌3個所、民家の粉じん3個所、対照(のつもりだった)として工場から700m離れた場所の土壌と粉じんの計8試料を採取して環境監視研究所に分析を依頼した。

■周辺も高濃度鉛汚染を起こしていた

 分析の結果、工場近くの土壌3試料の溶出濃度は0.022?1.1mg/Lといずれも土壌汚染対策法の溶出基準を超過、含有量でも2試料で500、780mg/kgと基準を超過していた。
表1 土壌中の鉛
 溶出量(mg/L)含有量(mg/kg) 
soil-10.022130道路際
soil-20.057780溝土
soil-31.1500道路花壇
soil-4<0.00564中庭
基準<0.01<150 
表2 家屋粉じん中の鉛
No.含有量
(mg/kg)
備考面積当たり
鉛量μg/m2
米国基準
μg/m2
dust-11,800屋内鴨居132,5652,691
dust-24,200玄関梁88,2004,306
dust-32,500窓板ひさし706,2504,306
dust-4590天井裏33,7392,691
 注:米国基準は単位換算して表記
 室内出窓などの基準と屋外の窓樋などの基準を適用

 家屋に積もった粉じんの鉛濃度は予想していたよりも高く、濃度で590〜4,200ppmというものであった。採取面積、粉じんの採取量から面積当たりの鉛量に換算すると、33,000〜706,000μg/m2となった。多いところでは1平方メートルあたり0.7gの鉛が積もっていることになる。もっとも濃度の高いdust-2は掃除が行き届いて、積もって残っている粉じんの量が少なかったため、面積当たりの鉛量は88,200μg/m2であった。

 屋外部の窓のひさしのdust-3の鉛量706,000μg/m2は米国の環境省が定めている家屋の鉛除去のガイドライン(屋外窓の樋部分で1平方メートル当たり鉛4,306μg)の164倍に相当する。室内のかもいの上dust-1でも、1平方メートルあたり鉛132,600μgと室内の窓枠などの基準2,691μg/m2の約50倍の汚染であった。対照として考えた工場から700m離れた家の天井裏dust-4も鉛33,700μg/m2と、基準の約13倍の汚染であることが判明した。
 工場から700m離れた地点でもユアサからの鉛汚染が及んでいる可能性が高くなった。

■汚染者負担の原則に基づく詳細調査と汚染除去の申し入れ

 限定的な調査であるにもかかわらず、鉛汚染が周辺に及んでいることが明らかになったことから、私たち高槻・市民自主講座は、汚染原因者負担の原則(PPPの原則)に従って、ユアサの責任と負担のもとに、汚染現況調査や汚染前の状況への復旧を求めている。
 同時に高槻市にも市民の健康を守る責務からユアサへの厳しい指導を申し入れた。(7月14日)
 8月15日現在、ユアサからも高槻市からも回答がないが、鉛汚染は1km圏以上に広がっていると推定され、高槻市中心部の少なくとも1万世帯以上にかかわるゆゆしい問題である。


本紙94号「集合住宅の補修工事で一時避難/今度は
近くのバラ園の農薬散布に苦しむCS家族」の続報

 東京都練馬区土木部公園緑地課からバラ園の農薬散布に関する要望書に対する回答が7月7日付けでKさんに届きました。

回答概要
四季の香公園のバラ園管理について
1.薬剤の種類・回数等の変更について

 今後使用する薬剤については有機リン以外の薬剤を予定している。
 薬剤散布の回数等については、バラが病害虫にひじょうに弱いという特性や、花をきれいに咲かせ鑑賞してもらうためにはある程度はやむを得ないと考えている。
 しかし、年間予定表にとらわれることなく、現地をよく観察し、効率よく必要最小限の回数・量になるよう努めたい。

2.周知方法について
 散布日が決定した場合は、遅くとも実施の数日前までにK様宅、光が丘S学童クラブ、子育てのひろばPにお知らせを配布している。実施日の数日前までに、バラ園入り口2カ所にお知らせを掲示。散布当日は、子どもの通学時間を避けるため、散布作業を午前9時以降に開始することを徹底している。
 今後も散布の実施・変更については、事前に知らせ、周囲への影響がないよう十分注意する。

 有機リンから他の農薬への切り替えは評価できます。ただ、バラ園は農薬なしには管理できないという壁が依然大きく立ちはだかっています。
 周知方法等についても、散布時はもちろん、数日間は周囲を立ち入り禁止にしないと影響がありますが、実施していないようです。また、通学時間を避けて午前9時以降にするというのも、早く下校する小さい子ども達は散布とぶつかる可能性があるのではないかと危惧します。
 公園という性格上、休日に散布するというのも無理でしょう。とすると、安全な方法は安全な代替法に切り替える以外にないのではないかと思います。
 当会のウェブサイトに掲載された記事を見た仙台市の方から代替法について情報を寄せていただきました。 「梶みゆきさんという園芸家が無農薬バラ栽培について何冊か本を出しています。木酢液と碧露(ヘキロ)を併用しているようです。それから、ローズアドバイザーでTVチャンピオンになった方は、ジックニームを使っているようです。ヘキロとジックニームは化学物質過敏症患者にも使えるようです」
 送っていただいた資料の中からピックアップしてみると、
  • 木酢液(キクノール):土壌改良剤・植物活性液(編集注 CS患者さんには臭いが強くてだめのようだ)
  • 月桃エキス:しょうが科のハーブ月桃から作られた植物保護液。うどんこ病などに効く。(編集注 これも臭いがきつそうだ)
  • 碧露(ヘキロ):多種類の野生植物抽出液からできている植物保護液
  • ジックニーム:ニームはインドセンダンの英名。他のニームより純度がよいとうたっている。農業用駆虫剤として特許を得ている。
  • 無農薬バラ園芸本『バラの園を夢見て』part1、2 梶みゆき著  出版社
  • 『バラ大百科』日本放送出版協会 病害虫に対する強さについてランクが載っている
 東京ディズニーランドでは、碧露で管理しているという情報もあります。これらがCS患者さんに大丈夫かどうかは、調べてみないといけませんが、情報を集めてバラ園管理者に提供して、より安全な代替管理法への切り替えを要求していきたいと思います。情報がありましたら、お寄せください。
(安間節子)


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