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社説

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15%削減―低炭素革命の起爆剤に

 地球温暖化対策で焦点となっていた温室効果ガス削減の中期目標を、麻生首相が発表した。2020年までに05年比で15%削減する、という。

 90年比だと8%削減になる。政府検討委が示した六つの選択肢のうち、削減幅の小さい方から3番目の数字に1%を上積みした。緩い目標を求める経済界と、厳しい目標が必要だという環境団体の主張の間をとった形だ。

 05年比の削減幅で比べると、欧州や米国の中期目標をやや上回る水準である。しかも、欧米と違って森林吸収や海外から取得する排出枠を含めていない「真水」の目標だ――。首相はそう説明し、欧米の中期目標よりもずっと野心的であると強調した。

 確かに、省エネ推進や自然エネルギーの拡大、エコカー普及などによる国内排出量の実質削減を目標に掲げた点はいさぎよく見える。

 ただ、15%削減という数字は首相も認める通り、「本格的な国際交渉に向けた第一歩」にすぎない。正式な削減目標は、京都議定書に続く次の枠組みの下、各国の目標とともに決まる。

 12月の合意を目指して今も進む国際交渉の場では、「先進国全体で90年比25〜40%削減する必要がある」という認識が、欧州や途上国、新興国の間で広がっている。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学的な予測をもとにした数字である。

 これに比べると首相の掲げた数字は小さく、交渉の中でより大きな削減目標を迫られる可能性がある。「真水」や森林吸収、排出枠取得でどこまで上積みするかが焦点になるだろう。

 日本が削減目標を上げることは、中国やインドのように排出量の多い新興国に削減努力を促す意味でも重要だ。両国が削減に取り組まない次期枠組みになっては、温暖化防止の効果が薄れてしまう。途上国や新興国への技術・資金支援というカードも使いつつ、合意に向けて力を尽くさねばならない。

 とはいえ、中期目標ばかりに注目していると、最終的な目標を見失いかねない。肝心なのは、温暖化をいかに防ぐかである。

 そのために日本は、福田内閣時代に「50年に現状比60〜80%削減」という長期目標を掲げた。できるだけ早く、国内の産業や社会の構造を変えていかねばならない。いまこそ、排出量取引や炭素税のような大胆な施策についても検討を進め、国を挙げて低炭素化にかじを切るべき時だ。

 日本の生きる道は、来るべき低炭素時代に世界トップ級の国際競争力を確保することしかない。温室効果ガスの削減に努力すればするほど技術革新が促され、産業や社会の低炭素化とともに新たな経済成長の道も開ける。

 削減目標は低炭素革命の起爆剤なのだ、と考えたい。

広島少年院事件―これが「育て直し」とは

 シャワーで水をかけ、無理やり紙おむつをつけさせて、その姿を仲間に見せつける。「これを飲んで死ね」と言って、洗剤の容器を口に押しつける。顔を殴り足蹴(あしげ)にしたあげく、トイレに行かせず失禁させる。

 広島少年院に収容されている少年たちに対して、法務教官らが加えたとされる暴行の数々である。

 広島地検はその教官4人を特別公務員暴行陵虐の疑いで逮捕した。

 少年院は非行を犯した子どもを保護し、生活指導や職業訓練などによって矯正教育をする施設だ。法務教官が親代わりになって面倒をみることから、「育て直し教育」の場ともいわれる。

 だが、広島少年院でおこなわれていたのは教育からはほど遠く、人間の尊厳を踏みにじる行為である。

 度重なる暴力に耐えかね、「何でも暴力で押しつけられるくらいなら、死んだ方がましです」と訴える少年に、逮捕された1人は「じゃあ死ね」と言い放ったという。こんな人物が教官をしていたとは空恐ろしくなる。

 事件の発覚後、法務省が収容されていた少年102人に聞き取り調査をしたところ、08年度の1年間に被害を受けた少年は約50人、暴行件数は約100件にのぼった。大半は逮捕された4人がかかわったというが、見て見ぬふりをしていた他の教官の責任も重い。

 外部の目の届かない密室で何が起きたのか。検察当局は捜査を尽くし、真相を明らかにしてほしい。

 少年院では、院長に面接して処遇の苦情などを申し立てる制度がある。ところが、広島少年院ではこの2年間、一度も面接がおこなわれなかった。申し立てがわかると処遇が悪くなり、報復も怖かったと証言する少年もいる。

 再発を防ぐうえで重要なのは、外部の目によるチェック機能だ。

 刑務所など刑事施設については、02年に名古屋刑務所で起きた刑務官による暴行致死事件を契機に、97年ぶりに監獄法が改正され、民間人の視察委員会が施設ごとに設けられた。

 少年院でも、収容者が救済を求めた時に、法務省から独立した第三者委員会が内部調査できるよう制度を整えねばならない。

 この事件は氷山の一角ではないかという疑念もぬぐえない。広島と同じようにこの2年、「院長面接」がゼロという少年院が7カ所もあるからだ。

 法務省は広島を除く全国51の少年院で、教官による暴行の有無など処遇の実態調査を進めている。結果はすべて公表し、悪質なケースは検察当局に告発すべきだ。

 教官のほとんどは少年の矯正に熱意を持って取り組んでいるに違いない。だからこそ、このような事件の再発を防がねばならない。自浄力を示すことが信頼回復への第一歩である。

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