子供たちの笑顔を守りたい。
インタビュー中、突然彼女がベッドに駆け寄った。ブザーが鳴りだしたのとほぼ同時のこと。丁寧に、かつ迅速に吸引を施すと、ちいさな患者さまはまた柔らかな寝息を取り戻した。小児科・眼科病棟に勤務する五十嵐さんは、今年看護師2年目。「お薬飲んでくれない子もいるし、まだお話しのできない子もいます。それでも小児科がよかった。」と語る彼女に、新人看護師としての1年間を振り返ってもらった。
彼らには無限の将来があるから。
新人看護師として、どんな一年間でしたか?
「一言で言うと、“スピード”でした。最初はわからない事がたくさんあったし、プリセプターになってくださった先輩にも質問の連続でした。先輩の仕事ぶりをしっかりと勉強させてもらうことができたから、きめ細やかな配慮とはどういうものか、また的確な対処とはどういうものかを知ることができました。わき上がる質問に対する答えがすぐ手に入る、これは非常に実践的だと思います。また小児科の場合は、患者さまが自分の状況を言葉にできない場合が多いので、現場で得ることのできる知識は非常に重要だと感じました。また、どの科でもそうだと思いますが、特に小児科では患者さま自身に対するケアの他にご家族に対してのケアもあります。今、私はご家族に対する看護力を身につけたい、と思っています。その他に研修会やセミナーなど、多くの学習の機会が設けられている点も新人としては嬉しいところでしたね。」
なぜ小児科病棟を希望されたのですか?
「いちばんの理由は、無限の可能性がある子供たちが病気やけがで、障害を負ったり何かを諦めなければならなくなったりすることがとても悲しいと思ったからです。それを防ぐお手伝いがしたいと思いました。それに、お子さんの病気やけがは、その子のご家族にも大きな影響を及ぼします。健康状態を崩されたり、家庭環境に問題が出てきたりとそのかたちはさまざまですが、そういった所に対するケア、家族看護というんですが、そういった分野にも強い興味を持ちました。先ほど申し上げたご家族に対する看護力というのは、この家族看護のことなんです。」
切ない夜。嬉しい再会。
小児科病棟ならではのエピソードはありますか?
「やっぱり入院している子たちのお話ですね。まだ一人でお泊まりできないぐらい小さな子でも、お母さんと離れて一人で寝なくてはいけないんですね。すると私たちが夜、巡回している時に私の看護服の裾を握りしめて「おかあさんは?」とか「いっしょにいてよう」とか泣きながら言うんです。でも巡回に行かなければいけないし、ナースコールも鳴るわけですから一緒にいてあげることもできない。自分まで泣きそうになっちゃうくらい切ない夜が何回もありました。またそうかとおもえば、ずいぶん前に退院した子が昼間、検診にきたりすることもあります。元気そうに真っ黒に日焼けしてたりすると、思わず嬉しくて、「おっきくなったねー。」と声をかけちゃいますね。他にも、お薬が嫌いな子にどうやったら薬を飲んでもらえるか、お母さんと一緒に工夫する、とかも小児科ならではじゃないでしょうか。」
この1年間を振り返っての感想をお聞かせ下さい。
「この病棟は小児科だけではなくて眼科の病棟でもあるので、他の科に入院されている大人の患者さまが受診されることもあるんですね。そういった様々な患者さまと接することの素晴らしさを、この1年間にいっぱい味わうことができました。キツい事もあるし、目頭が熱くなる事もありますが、それでも患者さまからいただく「ありがとう」の重みとか、何ヵ月もがんばってやっと退院の日を迎えた子たちの笑顔とかがあるから、私自身明日もまた笑顔でがんばれる。勉強する事もたくさん、覚える事もたくさん、でも嬉しい事もたくさんある、というのが私の感想です。