きょうの社説 2009年6月10日

◎能登本まぐろ 境港追撃へブランド化急げ
 能登の漁港がクロマグロの大漁に沸いている。市場関係者の見方を総合すると、今年は 「当たり年」になる可能性が高く、今月からは金沢港や珠洲市の漁港で県外船団の受け入れが再開され、珠洲市沖ではクロマグロの蓄養事業も動き出す。県はこれらクロマグロを「能登本まぐろ」として売り出す計画であり、「加能ガニ」「天然能登寒ぶり」に続く第3のブランドに育てる夢が膨らみそうだ。

 これまで夏場に能登沖で捕れたクロマグロの水揚げは、鳥取県の境港が一手に引き受け てきた。2007年の天然クロマグロの水揚げ量は、石川県の166トンに対し、鳥取県は2300トンで全国1位を誇る。大阪や東京の市場では「境港ブランド」が浸透しており、鮮度の維持や出荷、配送などのノウハウ、販路の確保など、長年培ってきた総合力で優位に立つが、能登は漁場に接近し、大量消費地の大阪・東京に近い強みがある。この「地の利」を最大限に生かし、ブランド力でライバルに追い付き、追い越したい。

 能登沖を回遊するクロマグロ漁の主役は、大型の巻き網船団で、水揚げのほとんどを境 港に運んでいた。県漁協はこれまで、県内の魚価が下がるのを恐れ、県外船団の寄港を制限してきたが、燃油高騰による急激な経営悪化を背景に、漁港の水揚げ手数料を増やす必要性が叫ばれるようになり、今年から新潟、鳥取、島根、長崎各県のマグロ巻き網の計五船団に金沢、珠洲の2港を開放した。

 今季の初水揚げがあった8日は、蛸島港に1200本、七尾市公設地方卸売市場に80 0本のクロマグロが揚がった。この時期にしては大漁で、定置網では100キロ級の大物も捕獲されたという。

 県や県漁協は先月、ブランドの定義付けや販売方法などについて協議するための「能登 本まぐろブランド化推進協議会」を発足させた。クロマグロの蓄養事業に乗り出す珠洲市でも「能登本まぐろ産地協議会」が発足している。天然と蓄養のマグロを組み合わせた販売戦略ができれば、通年での出荷も可能になる。境港にはまねのできない強みになるのではないか。

◎離職者支援強化 ここが踏ん張りどころ
 国の今年度補正予算成立に呼応して、石川、富山県はそれぞれ6月補正予算案で「緊急 雇用創出基金」に50億円前後を上積みするなど離職者支援策の強化に乗り出す。北陸財務局は地域の景気について「底打ち感」が出てきたとの見方を示しており、その広がりが期待されるが、雇用情勢はさらなる悪化が心配されており、各企業の雇用維持と行政の離職者支援は、まさに今が踏ん張りどころである。

 昨年秋以降、急降下した景気について、与謝野馨経済財政担当相は「1〜3月期で底を 打った」とみている。民間の予測によると、4〜6月期の実質GDP(国内総生産)はプラスに転ずる見通しという。しかし、企業の求人は冷え込んだままで、4月の有効求人倍率は石川県内が0・53倍、富山県内は0・46倍といずれも過去2番目の低水準にある。

 景気と雇用の動きは通常半年ほどの時間差があるといわれ、たとえ景気が底を打ち、持 ち直しの兆しが見えても、雇用情勢が改善に向かうのはまだまだ先とみられる。4月時点で5%まで上昇した全国の完全失業率は、今年後半には過去最悪の5・5%に達するという予測もなされている。

 失業率の悪化と雇用不安の広がりに歯止めをかけることは、景気を回復軌道に乗せる大 きな鍵であり、官民一体で緊急雇用対策にてこ入れを図るときである。

 基金を活用した県、市町村の臨時雇用創出事業は、雇い止めなどで突然職を失った人た ちにとって重要な事業だが、あくまで緊急避難的な措置であり、安定した雇用の開拓に一段と力を入れたい。石川県は求人と求職のミスマッチをなくすため、「緊急ミニ合同面接会」を開くなどしてきたが、離職者のための職業訓練の拡充を含め再就職支援策にさらに工夫を凝らしてもらいたい。

 減産を強いられる企業では、コスト削減のため、なお厳しい人員抑制策を取らざるを得 ないところが多いとみられるが、拡充された国、自治体の支援策もフルに活用しながら雇用の確保、人材の育成に最善を尽くしてほしい。