岡田監督はバブリー?「ベスト4」発言に対する英語な皮肉――JAPANなニュース 

gooニュース・JAPANなニュース2009年6月10日(水)10:30

■本日の言葉「bubbly」(泡だらけ、浮き足立って、お調子者)■


英語メディアが伝える日本をご紹介するこの水曜コラム、今回は6日夜の大興奮「岡田ジャパン、ワールドカップ出場決定」について英語メディアが発した皮肉タラタラな慣用句のもろもろについてです。(gooニュース 加藤祐子)

○バブリーはバブリーでも

自分がサッカーについて書くのを一番驚いているのは自分、というくらいサッカーについて詳しくないのですが、イングランドにはそこそこご縁があるといういきさつの視点からすると、「まあ確かに、欧州の人は日本サッカーをこう見ているんだよね……」というそのものズバリな記事を見つけてしまいました。

ロイター通信のこちらは、1992年から東京在住のスポーツ特派員によるもの。見出しからしていきなり「日本の岡田監督はバブリーすぎるのか?」ですから。

わざと「バブリー」とカタカナにして誤解を誘ってみましたが、ロイターのアラステア・ヒマー特派員は別に、岡田武史監督がキンキラ成金趣味で六本木アマンド前の交差点で一万円札ふりかざしてタクシー拾っているジュリアナ常連だ——と言いたくて「バブリー」と書いたわけではありません。

そもそも和製英語の「バブリー」は「バブル経済」からきていて、この「バブル経済」は「bubble(泡)」のようなバカ景気という意味。そしてロイター特派員が使った「bubbly」は「泡だらけの」という形容詞。それでもなお、岡田監督が泡を吹いているとかそういう意味ではなく、泡がぶくぶくピチパチ浮き立つように軽いというか浮き足立っているというか、日本全国1億2000万人のサッカーファンを敵に回すようなことを言いますが、「お調子者」とか「調子にのってる」とかそういうことを言われてしまったわけです。

英語でシャンペンのことを俗語で「bubbly(バブリー)」と呼んだりしますし、いつもキャッキャキャッキャと箸が転んでもおかしい年頃の娘さんのことを「she's a bubbly girl(バブリーな娘さんだね)」と言ったりします。泡風呂のことは「bubble bath」です。まあつまり、そういうような関連語がたくさんある言葉で、わが日本代表の監督は評されてしまったわけです。

なぜかというと、ワールドカップ出場決定後の記者会見で岡田監督が「ベスト4に入ることに向かって闘志を出していきたい」と発言したから。ベスト4に「向かって闘志を出していきたい」という前向き姿勢は戦うからには当然と、私個人は思いますが、これが「ベスト4に入ると公言」となって伝言ゲーム的に伝わってしまったからでしょうか、ロイター記者に「おいおい、そこまで言うか」的な記事を書かせてしまったのは。

記事は、そんなことを言った岡田監督は実はタシケントからの帰国フライトの中でお祝いしすぎたのかもしれない(celebrated too much)、つまりは酒を飲み過ぎたんじゃないか?——と、皮肉たらたら(お祝いで飲む酒と言えばシャンペン=bubbly、にもひっかけているのかもしれません。上手いな)。考え過ぎかもしれませんが、ああまたここにも例の「酒に飲まれる日本人」ステレオタイプが……。

○欧州は眠れているか

ではこれがことさらに不愉快な記事かというとそうでもなく、英語比喩や慣用句をたくさん使っていて面白いので、こうしてご紹介するわけです。たとえば、「岡田はベスト4入りすると発言したが、スペイン代表やイングランド代表の監督が心配で眠れずにいるとは、とても思えないけどね」というくだりは「losing much sleep」で、これは「lose sleep」の変形。直訳すれば「睡眠を失う」で、意訳すれば「眠れない、不眠」。「何かが気になって眠れない」という状態を「I'm losing my sleep because I'm so worried about なにそれ」と言います。

また日本がなぜワールドカップのベスト4にこだわるかという解説で、それは2002年の日韓共催大会で韓国が日本をさしおいてアジア初のベスト4入りを果たしてしまったからだと。以来、「日本人はずっとこのことを気にしていた(The Japanese have had a bit of a bee in their bonnet)」のだと。この「have a bee in 誰それのbonnet」という慣用句は、けっこうよく使われるもので、直訳すれば「かぶっている帽子の中にハチが入ってしまった」状態。つまりは「とっても気がかり」という意味。日本語で「五月蠅」と書いて「うるさい」と読ませるのと発想が少し似ています。

「韓国がアジア初のベスト4を果たしてしまって日本のお株を奪った」というくだりの「お株を奪った」という意味の慣用句は「stole their thunder」。直訳は「誰それの雷を盗んだ」で、これもよく使います。

○眉が上がったり目を回してみたり

そしてさらに、岡田監督は(2002年韓国代表の監督だった)ヒディンク監督とは器が違うのだし(Okada is no Guus Hiddink)、そもそもアジアから4〜5カ国も本戦出場できるいまの仕組みで日本が出場できないわけもないのだから、岡田監督のベスト4発言に「人々は眉をあげたし、日本選手たちには不要なプレッシャーを与えたかもしれない」と結んでいます。この「眉をあげた」と訳してみたここは「raised a few eyebrows(何人かの眉がつりあがった)」で、「raise eyebrows」という表現がもとになっています。

そしてこれは英語では本当によく使う表現で、欧米人は本当によくやる表情なのですが、日本人はどうでしょう。単なる驚きではなく、ちょっといぶかしげな感じで「ええ?」という風に目を見開きそれに伴って眉(eyebrow)が上にあがる(raise)表情。日本人もしますか?

自分も日本人なのになぜこんなことを聞くかというと、かつて「そういう表情は日本人はしないものだ」と断定されたことがあったからで(しかも日本人の私が現にそういう表情をしていたのに)。それはやはり英語表現ではよく使い、欧米人は本当によくやる表情で「roll 誰それの eyes」 。何かに呆れて辟易したとき、目をぐるりと回して(主に上向きに左右ぐるりと)「やれやれ」と表現したいときに使うのですが……。これがそのままでは日本語に訳せないということは、やはり日本人のする表情ではないのですね。やれやれ(目をぐるり)。

ちなみにサッカーに詳しくない私がこういうことを書くのもあれなのですが、サッカー好きのイングランド人と「なぜ日本は得点力がないのか」について酒を飲みながら話をしたところ、その人は私がこういうコラムを書いているのを知っているのでこんなことを言っていました。

「日本人が英会話が苦手だと言われるのと同じじゃないかな。全員がそうだというわけじゃないけど、文法的に正確できちんとした構文が整った文章をまず頭の中で組み立ててからでないと口にできない、そういう日本人が多い気がする。意味が伝わればいいんだからともかくしゃべろう、とは思わないというか。ネイティブはそんなこといちいち気にしないし、みんなけっこう間違いながらでもどんどんしゃべるよね。それと似ていて、欧州や南米のプレイヤーはここぞという時はともかくひたすらゴールに向かって打っていくけど、日本のプレイヤーはきちんとしたフォーメーションからきちんとしたパスコースが見えないとゴールに打たないような気がするよ。印象だけどね」

That's just my impression.


◇本日の言葉いろいろ
bubbly=ぶくぶく、ピチパチ、キャッキャキャッキャ、お調子者
loose sleep=心配で眠れない
celebrate=お祝いする
bee in the bonnet=とっても気がかり
steal their thunder=お株を奪う
raise one's eyebrows=びっくり怪訝そうに眉を上げる
roll one's eyes=やれやれと辟易して目をぐるりと回す (「目をぎょろぎょろさせる」という訳はちょっと違うんじゃないかなあ…とずっと思ってます)

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。

 

 

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