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映画「ハゲタカ」監修者が語る、胎動する中東マネーの「天文学的インパクト」

ダイヤモンド・オンライン6月10日(水) 8時30分配信 / 経済 - 経済総合
「ハゲタカ VS 赤いハゲタカ」――。

 こんなセンセーショナルなキャッチフレーズを掲げて、先週末から映画「ハゲタカ」が公開された。

 国家の莫大な資金を背景に、日本企業に容赦ないTOBを仕掛ける中国系ファンドの姿は、フィクションとはいえ、見る者に衝撃を与えている。

 だが、国家ファンドは何も中国に限ったものではない。「主要なものだけでも全世界に40程度存在する」と言われている。

 なかでも、以前から大きな存在感を示しているのが、オイルマネーを原資に天文学的な資金を運用する「中東湾岸諸国の国家ファンド」である。

「総運用資産3兆ドル」とも言われる世界の国家ファンドの地域別分布割合は、中東48%、アジア34%、欧州13%、アメリカ他5%の順になっている。特に中東は「全世界の約半分」という莫大なシェアを占めているのだ。

今回は、「資源型国家ファンドのメッカ」とも言われる中東諸国ファンドの「知られざる姿」に迫ってみよう。

 まず湾岸諸国とは、GCC (湾岸協力諸国)を構成するサウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、クェート、オマーン、バーレーン、カタールの6ヵ国のことだ。

 一方でこの6ヵ国は、OPEC(石油輸出機構)にも加盟している。GCCを含む13ヵ国で構成されており、世界全体の原油生産量の約4割を占めている。

 意外にも、彼らの財政基盤の磐石さはまちまちだ。OPEC各国において「現状の原油産出量を前提に、1バレル当たり何ドルであれば国家予算収支が均衡するか」という推計値を見ると、UAE、カタールが約25ドル、クェートが35ドル、サウジアラビアが50ドル、バーレーンとオマーンが75ドルで均衡するという。

 そんななか、最も存在感が大きい国家ファンドは、GCCとOPECの中でも“ピカイチの優等生”と言われるUAE、なかでも国力が抜きん出ているアブダビである。

 先週6月1日、経済産業省所管の財団法人である「中東協力センター」が、UAEに属するアブダビ首長国の政府関係者などを東京に招き、「投資フォーラム」を開催した。

 狙いは、石油収入で得た同国の投資資金を日本の国内産業に呼び込むことや、両国間の関係強化にある。世界最大級の国家ファンドである「アブダビ投資庁」(ADIA)も、このフォーラムに自ら参加した。

 UAEを構成する7つの首長国のなかで、原油などの資源を産出するのは、アブダビとドバイのみ。それも、「原油埋蔵量の残存可採年数」という両国の「国力」を比較すると、「アブダビが90年超に対してドバイは10年未満」と、その差は歴然としている。

 実際、アブダビの財政状態は健全そのものだ。「今後子孫を2〜3世代は養える」と言われる残存可採原油埋蔵量をバックに、ADIAをはじめ、目的に応じて複数の国家ファンドを運営している。

 彼らが自負するのは、「傑出したグローバルな機関投資家」である。そのミッションは、アブダビ首長国の繁栄を堅持して行くことである。

 純粋に金融リターンのみを求めて長期投資を行ない、投資企業への経営関与は行なわない。これは、映画「ハゲタカ」に登場する中国の国家ファンドと比べれば、随分マイルドな投資姿勢と感じられるだろう。

 有名な国家ファンドとしては、08年にニューヨークのクライスラービルディングを8億ドルで購入した金融系の「アブダビ投資評議会」(ADIC)、金融リターンに加えて経済的な国家目標を重視する戦略的国家ファンドの「ムバダラ開発」がある。前述のADIAは、この双方の特徴を併せ持つ「ハイブリッド型」である。

 これらの中東マネーは、いったいどこへ向かっているのか?

 彼らの投資方針は、国家的な目標に基づく長期投資だが、金融危機に端を発する世界的な不況の煽りを受け、足許では慎重姿勢を続けている。

 ダメージを被った原因の1つは、リーマンショック前に米国の金融機関へ大型投資を行なってしまったことだ。

 たとえば07年には、ADIAが75億ドルにも及ぶシティグループへの救済投資を含む1400億ドルを、欧米の金融機関へ投資した。さらに「救済投資」として、08年初頭には計100億ドルが投資されている。内訳は、クウェート投資庁によるシティグループへの30億ドル、メリルリンチへの20億ドル、カタール投資庁によるバークレーズへの50億ドルだ。この2年間だけでも、実に約24兆円もの投資が行なわれたことになる。

 そのインパクトたるや、すさまじい。中東国家ファンドが行なった08年初頭の投資は、同年における米国全体のM&Å取引の28%を占めた。

 しかし、これらの投資は、欧米、金融機関に偏重していたため、リスク分散ができていなかった。その後の原油価格の急速な下落を背景に、マネーは急速に「自国内投資」へとシフトして行ったのだ。

 また、リーマン破綻前のリスクマネーが、GCC諸国の通貨そのものを投資対象としていたことも災いした。GCC諸国の通貨は、現在クェートを除いて「ドルペッグ制」になっている。

 そのため、GCCの国家予算余剰は、マーケット筋に「ドル安、自国通貨高を背景としたドルペッグ制の廃止」という市場観測を与え、リスクマネーはこぞって資金をシフトしていた。

 ところが、その後のサブプライムショックにより、リスクマネーはGCCから一斉に引き揚げてしまったのである。

 金融機関が軒並み「流動性不足」に陥ったドバイは、国家ファンドの新規投資凍結を余儀なくされ、今や不動産などの開発プロジェクトのうち、「約4割は完全停止、残りの6割がペースダウンしながらかろうじて続行中」という苦境に陥っている。

 しかし、米国をはじめとする「景気底打ち観測」が広まり始め、株価や原油価格が再び上昇し始めた現在、彼らは早晩体制を建て直し、巨額資金の運用先を求めて大規模な投資を再開するだろう。

 アブダビが存在感を示した前述のフォーラムのように、彼らには、日本をはじめとする先進諸国からも、並々ならぬ熱い視線が向けられているからだ。

 中国の国家ファンド同様、中東マネーが日本に「第二の開国」を促す一大勢力になる可能性は、十分あると言えそうだ。

(勝又幹英・ニュー・フロンティア・キャピタル・マネジメント社長)

●映画「ハゲタカ」全国東宝系にて絶賛上映中!
監督/大友啓史、出演/大森南朋、玉山鉄二、栗山千明、柴田恭兵ほか


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  • 最終更新:6月10日(水) 8時30分
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