収賄事件で起訴された鶴岡啓一前市長は、4年前に再選を果たした翌日の記者会見で、こう言った。「公共工事をやるには、これまでの4年間は金利も安くていい時期だった。今年(05年)は税収も増える見込みだ」。また、当選直後のスピーチでは「蘇我副都心など新たなまちづくりで、市全体を活気のある都市にしていきたい」。大型開発を手掛けてきた政令市長の自負をにじませ、2期目も「開発」を市政の中心に据える考えを示した。
前市長が8年間で進めた主な大型開発には、▽蘇我特定地区開発(316億円)▽官民複合再開発ビル「Qiball(きぼーる)」(368億円)▽千葉駅西口開発(69億円)--などがある。政令市昇格が横浜や川崎より遅れた分を取り戻そうとしているかのようだが、結果として現れた「まち」に対する評価は厳しい。
今回の出直し市長選の告示日、自民党などが推薦する元副市長の林孝二郎氏(63)の応援に駆けつけた森英介法相(千葉11区)は「千葉市のまちづくりは、県都としては不十分」と評した。
買い物で市内を訪れた東京都文京区の主婦(42)も言う。「横浜などに比べ、千葉の中心部で思い浮かぶ観光地や施設はほとんどない」。千葉大法経学部の新藤宗幸教授(行政学)は「千葉市には『へそ』がない。都市としての核や特色がない」と手厳しい。
成功を収めたとは言い難い開発の裏で、財政のつけはしっかり積み上がっている。
市債(市の借金)の残高は07年度、1兆790億円。鶴岡前市長が就任した01年度の8703億円から24%増えた。市財政課は「政令市として必要なところへ投資してきた」と説明する。
一方、市の「実質公債費比率」(収入に占める借金返済額の割合)は19・6%と、政令市では横浜市に次いでワースト2位(07年度)。自治体が将来負担する借金の規模を示す将来負担比率は、311・6%(同)と政令市最悪だ。市幹部からも「抜本的な市財政の立て直しが必要」という声が出ている。
市は06年度から、市債発行額を抑制する「公債費負担適正化計画」を開始。開発に大きくブレーキをかけ、毎年の市債発行額を300億円に抑える計画を立てた。だが、08年秋に景気悪化が重なり、税収不足でいきなり400億円の発行を余儀なくされている。
高齢化が進み、税収の先細りが懸念され、市債の負担が重くのしかかる。社会を担う次世代の少子化対策をどうするか。高齢者福祉にどう配慮するか。今後、難しいかじ取りが求められる。次期市長が背負う課題を探る。【斎藤有香】
毎日新聞 2009年6月10日 地方版