ある事件の被害者がかつて住んでいたマンションを訪れた。共同玄関には「住民に対する取材お断り」と書かれた紙が張られていた。他社が既に聞き込みをしていたようだ。
「先を越された」と思ったが、住民への聞き込みはせずにマンションのオーナーに話を聞いた。いきなり「マスコミはどうして人の迷惑を考えないのだ」と言われた。初めは意味が分からなかったが、詳しく聞くと聞き込み取材のせいでマンションを退去する人が出てきたという。張り紙がなければ自分も同じ事をしていたと思う。
報道することは社会的意義があるが、そのために罪のない人を傷つけてはならない。そんな当たり前のことを忘れそうになっていた。忙しさをいいわけにせず少し立ち止まって自分を見つめ直そう。【山川淳平】
〔播磨・姫路版〕
毎日新聞 2009年6月8日 地方版