福岡市博多区板付の小中学校の児童生徒が新型インフルエンザに集団感染した問題で、福岡県は9日、先月25日に九州で感染が初めて確認された米国人男性(38)が感染源の可能性が高いと発表した。米国人男性は発症前に板付地区の飲食店を利用していたが、県は飲食店の客や従業員らを健康監視対象にしていなかった。福岡市などへの情報提供もせず、行政間の連絡の不備が明らかになった。
県によると、米国人男性は先月22日に米国から福岡空港に到着後、同県志免町の妻の実家に滞在。24日朝から発熱するなどして、25日に感染が確認された。既に回復し、入院先を退院している。
男性は23日、福岡市東区で墓参りをした後、JRで香椎駅から須恵中央駅まで移動。同日午後7時半から約2時間、生徒の集団感染が起きた福岡市立板付中の校区内にある飲食店で、友人数人と食事した。これまでに男性と接した親族や友人らは発症していない。
飲食店の利用は当初から判明していたが、県は8日なって初めて、中学生と男性のウイルスの遺伝子配列を調べ、9日にほぼ一致するとの結果を得た。男性が住むカリフォルニア州で見つかったウイルスと同一で、これまで国内で見つかったウイルスとは異なることから、感染源である可能性が高いという。
先月25日の発表の際、県は「社会活動の萎縮や風評被害を避ける」として男性の入国後の行動や立ち寄り先などを公表せず、福岡市や志免町にも情報を提供していなかった。
この点について県の平田輝昭・保健医療介護部長は「友人や親族以外に男性と長い間対面していた『濃厚接触者』がいないため、感染は広がらないと考えていた」と話し、行政間の連絡の不備については「今後の検討課題にしたい」と語った。
福岡市の感染者は9日、新たに市立板付中生徒3人と板付小児童6人の計9人が判明し、総数は36人になった。【斎藤良太、川名壮志】
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福岡市博多区板付地区の新型インフルエンザ集団感染で、1人目の感染が確認される前、発熱した小中学生を診た医師らが福岡市に遺伝子検査を依頼したが、保健所側が検査をしなかったことが分かった。市は、九州の感染1号となった米国人男性(38)が板付地区の飲食店を訪れていたことが県から伝わっていなかったことを挙げ、「この情報があれば対応は変わっていた」と批判している。
複数の病院によると、板付地区で1人目の感染が確認される約1週間前、既に複数の児童らが発熱などで受診し、簡易検査で「陽性」と診断された。医師が博多保健所に連絡したが、遺伝子検査は見送られたという。
今月5日に板付小の児童4人を診た医師によると、簡易検査で陽性反応が出たため、博多保健所に遺伝子検査を依頼した。しかし職員から「季節性インフルエンザと同じ対応で構わない」と言われ、遺伝子検査を断念したという。また同日、板付中の男子生徒を診た別の医師は県の筑紫保健所に検査を依頼し、この生徒はその後、感染が確認された。
市の対応について医師らは「5月末ごろから、保健所の消極的対応の話が医師の間で出ていた」と批判した。
一方、市によると、この時点で遺伝子検査の実施基準は、簡易検査で陽性が出たうえ、関西への旅行歴や海外への渡航歴がある場合などだった。市保健福祉局は「遺伝子検査が必要な人には入院を勧告しなければならず、相応の理由が必要。簡易検査の陽性者をすべて検査するのも不可能だ」と釈明した。
また、米国人男性の板付校区立ち寄りが市に伝わったのは今月7日で、「県はそれまで『福岡市での濃厚接触者はいない』と話していた」と説明。市保健福祉局幹部は「情報が入っていれば、当然対応は違っていた」と県の対応を批判した。
保健所は都道府県のほか、政令市と中核市、政令で定める市に設置され、感染症法で指定された新型インフルエンザなどの対応についても、都道府県を通さずに厚生労働省と直接連絡を取り合っている。「保健所を設置する市とは常に情報交換している」(福岡県保健衛生課)というが、連絡態勢などについては法令上の定めはない。【門田陽介、鈴木美穂、河津啓介】
2009年6月10日