伊賀市の診療所「谷本整形」で、点滴などの治療を受けた患者多数が体調不良を訴えた院内感染事件で、市川満智子さん(当時73歳)=島ケ原=が死亡してから10日で1年を迎える。夫・篤さん(78)は、今でも癒えない悲しみを抱え、妻の冥福を祈り続けている。【伝田賢史】
事件は昨年5月から6月にかけ、看護師らがセラチア菌に汚染された消毒綿や作り置きの点滴を使用したため、18人が敗血症などで入院。伊賀簡裁は今年4月、谷本広道院長に対し院内感染を防止する注意義務を怠ったとして、業務上過失致死傷罪で罰金70万円の略式命令を出した。谷本院長は既に納付している。診療所は事件後休診したが、昨年11月に再開している。
篤さんは自宅で、「2人で各地の温泉めぐりをしたのが良い思い出。今でも毎日(満智子さんのことを)思い出す」と話し、涙ぐんだ。満智子さんは手芸が趣味で、総菜調理のパートや主婦業をこなしながら、夜間に作品を少しずつ作り上げていた。今では、篤さんにとっての大切な遺品となっている。一周忌の法要は6日に親族で済ませた。
診療所とは補償金の支払いについて合意したものの、いまだに支払いはないという。篤さんは「事件当初はすぐにでも払うようなことを言っていたのだが。刑事処分を軽くするためのポーズだったのか」と不信感を表した。
一方、谷本院長は毎日新聞の取材に、「ご遺族の気持ちを思うと、どのようにお詫(わ)びすべきか適切な言葉は見当たりません。現在は、患者さま一人一人に対し、医師・看護スタッフの目がきちんと行き届くような診療を心がけています」と弁護士を通じ文書でコメントを出した。
また、弁護士によると、市川さんの他に事件で入院するなどした患者29人と補償交渉をしているが、ほとんど完了しておらず、協議を続けるとしている。
〔伊賀版〕
毎日新聞 2009年6月10日 地方版