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社説

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骨太の方針09―増税の必要を隠すのか

 政府の新しい財政再建目標が経済財政改革の基本方針「骨太の方針09」の素案に盛り込まれた。麻生政権が経済危機を理由に、かつてない規模の大盤振る舞いに踏み込んでおり、財政赤字の膨張に新たな歯止めが必要になったためだ。

 忘れてはいけないのは、日本が主要先進国で最悪の赤字財政に陥っているということだ。このまま赤字が膨らめば、国債価格の暴落や長期金利の急上昇で経済が立ち行かなくなる心配もある。将来世代に借金のつけ回しを続ければ、子や孫の世代が受けられる社会保障などの公共サービスの水準は今よりずっと切り下げられる。

 何らかの新目標で歯止めをかける意思を示すことは必要である。

 新目標では二つのモノサシが採用された。一つは、従来ある、国と地方の「基礎的財政収支」の黒字化。借金返済分を除く歳出をその年度の税収だけでまかなえる状態のことだ。これまで当面の目標にしてきた「2011年度の黒字化」が絶望的となり、19年度まで8年ほど先送りした。

 もう一つは、国と地方の「債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率」だ。日本は約170%で、米欧主要国の60〜80%に比べて著しく悪い。これを20年代初めまでに「安定的に引き下げる」という。

 国と地方の借金残高は800兆円をゆうに超える。毎年度に国債発行で新たな借金を積み上げ続けている政府にとって、軌道修正された新目標でさえ達成は生やさしくない。経済危機対策の結果、今年度に発行する新規国債は44兆円と過去最悪の規模になり、税収をも上回る。この状態を続けていくことはできない。

 問題は、どうやって目標を達成するかだ。そこを「骨太09」の素案は「税制抜本改革や歳出歳入改革の中で所要の財源を確保する」と説明するが、これではあいまいすぎる。

 ただ、付属資料である内閣府の試算は、その答えを示唆している。基礎的財政収支を19年度に黒字化するには、世界経済が順調に回復するとしても、現在5%の消費税率を段階的に10〜12%まで引き上げないと達成は難しいということがくみ取れる内容だ。

 答えは消費税を軸とする増税しかないと、麻生首相はじめ政府・与党幹部らは認識しているはずだ。だが総選挙を前に、それを国民にはっきり告げることを避けているように見える。

 経済政策を巡っては、このところ自民党と民主党が大盤振る舞いを競う場面が多い。だがこれが国民が望む2大政党制なのだろうか。

 社会保障や若者たちの負担をはじめ日本の将来をどうするのか。そのための財政再建と消費税こそ両党がこんどの総選挙で競うべきテーマである。

電気自動車―石油がぶ飲みに別れを

 そのクルマには、エンジンもマフラーもない。三菱自動車が7月から販売する世界初の本格的な量産型電気自動車「アイミーブ」だ。エンジンなしで動くのは、モーターを動力に使っているから。石油資源を使わないクルマの新時代を期待させる。

 09年度の販売こそ法人向け中心に約1400台と控えめだが、10年4月に一般向けにも販売を始め、11年度に1万5千台の販売を目指すという。

 1キロ当たりの走行にかかる電気料金は昼間で3円とガソリン車より大幅に安くなるが、車両価格は、国の補助金を受けても約320万円。リチウムイオン電池により160キロ走れるが、フル充電には家庭のコンセント(100ボルト)で約14時間かかる。

 こうした価格や使い勝手では、エンジンとモーターを併用しているトヨタ自動車やホンダのハイブリッド車にかなわない。改善を急がねば、なかなか普及が進まないかもしれない。

 それでも、すばらしい長所がある。二酸化炭素(CO2)の排出は、走行中はゼロ。電力会社が発電する時に出る分を計算に入れても、ガソリン車の約3分の1だ。排ガスで地球環境を悪化させてきたクルマの「原罪」を小さくし、温暖化防止に役立つ。

 電気自動車は富士重工業も7月に発売する予定で、日産自動車は10年秋に年5万台規模で生産を始めるという。いずれ太陽光発電による電気を使うことが一般化すれば、ほぼ完全なエコカーが走り回る時代も夢ではない。技術開発と低廉化に期待したい。

 米フォードは世界初の量産型ガソリン車「T型フォード」でクルマの世紀の扉を開いた。フォードを抜いて世界一の販売台数を誇った米ゼネラル・モーターズは先ごろ破綻(はたん)し、石油がぶ飲み型の終わりを印象づけた。日本勢はいま、脱・石油資源のエコカーの世紀への扉を開く先頭に立っている。

 エコカーの普及には、価格や性能の改善、安全対策などメーカーの努力はもちろんだが、政府による購入者補助や、電池に使う希少資源の確保なども課題だ。一方、家庭のコンセントで充電できても、発電時にCO2排出が多い石炭火力が増えると効果が打ち消されてしまうという問題もある。家庭用に限らず太陽光発電など自然エネルギーの普及も進める必要がある。

 三菱自動車は5年ほど前、リコール隠し問題で経営危機に陥った。同社が電気自動車に賭けたのは、再建への熱意からだったろう。社内には「信頼回復はまだこれから」との声がある。実績を積み重ねてほしい。

 エコカーの開発・普及は、苦境にあえぐ自動車産業の再生の条件であり、新たな発展の機会だ。安全・安価、そして地球環境に優しいことを「メード・イン・ジャパン」の特徴にしたい。

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