トム・クルーズ主演の米映画「ラスト・サムライ」がヒットしたのは数年前だが、海外でのサムライ人気は衰えぬらしい。今秋、米メトロポリタン美術館で「侍の芸術」展が開かれることになった。
文化庁が戦後から続ける海外展の一環で、今回は日本刀や甲冑(かっちゅう)など計209点を出品する。その約半数が国宝や重文で、同庁は「国内でも例がなく、二度と開けない大展覧会」という。
岡山の誇る名宝も海を渡る。その一つが国宝「赤韋(あかがわ)威(おどし)鎧(よろい)」(岡山県立博物館蔵)。鉄と革の小札(こざね)を計約1800枚、茜(あかね)で染めた革ひもでつづってある。平安時代末期の技術の粋を集めてつくられた超一級品だ。
もともと、この大鎧は岡山のものではない。約800年前の承久3(1221)年、信濃国筑摩郡(長野県松本市)の武将が、領地として備中国川上郡穴田郷(高梁市)を賜ったことに由来する。
源頼朝の妻・北条政子の檄(げき)に呼応した東国の御家人たちが、後鳥羽上皇率いる京方と戦った承久の乱。敗れた京方没収地には、東国から地頭が赴任した。負け方となった吉備の人々の目には、「進駐」してくる馬上の鎧がまぶしかったろう。
西洋の戦場ではおよそ考えられない豪華絢爛(けんらん)な鎧。日本の歴史を秘め、「武士道」の原点にある美意識は、海外の目にどう映るだろうか。