食品表示に問題があったとして、農林水産省が昨年、日本農林規格(JAS)法に基づき小売業者などに行政指導や厳重注意した事例879件中、公表されたのは110件にとどまり、残る769件は非公表にしていたことが明らかになった。
共同通信社が農水省と各地の農政局、農政事務所に情報公開請求して分かった。国が把握した表示違反の9割近くが、消費者に知らされなかったことになる。違反業者を指導する権限は都道府県にもあり、公表されていない違反はほかにも多数存在する可能性があるという。
農水省は、悪質と判断して是正を指示したケースは公表したとし、非公表分については「過失や一時的な違反まで公表すると業者が受ける社会的打撃が大きい」と説明している。
表示違反の内容はさまざまであり、農水省がいうように公表が業者にとって過度の制裁となる場合もあろう。だが、実際に非公表となった事例を見ると、首をかしげざるを得ないケースが少なくない。
養殖のアユを「天然」としたり、ホルスタインを「松阪牛」としていた。2007年産米を08年10月に袋詰めし「新米」としていた業者もいた。
一度パック詰めした肉を詰め直し、消費期限を延長したケースもあった。中国産のウナギを「大分産」「鹿児島県産」、あるいは「国産」とした事例もみつかった。これらは以前に事件にもなった表示偽装のケースとどう違うのか。
非公表となったケースでも業者が自主的に新聞広告や店内の広告で謝罪し、返金に応じた例もあるという。こうしたことも踏まえると、本来消費者に知らせるべき事例が相当数含まれていると解釈せざるを得ない。
結果的に消費者を脇に追いやった形で判断が下され、問題が処理されていたことになろう。制度的改善、農水省職員の意識改革が求められる。
こうなると9月発足が決まった消費者庁への期待が高まる。省庁ごとの縦割り行政を転換、消費者目線の行政推進へ司令塔となる任務を背負っている。
当初の職員は約200人で、各省庁からの出向者が中心となる見込みだ。食品表示に目を光らせる仕事を含め、実務の大半は引き続き各省庁が担う。
他省庁ににらみのきく人物をトップにもってこなければ実効は挙げられまい。長年産業育成に主眼を置いてきた行政を転換し、消費者主役の行政を実現することは簡単ではない。
日中閣僚級の「ハイレベル経済対話」が東京都内で開かれ、知的財産権の保護など幅広い分野で協力することで一致した。協調を重視する一方、利害が絡む問題では進展がみられず、解決は先送りされた格好だ。
経済対話は、貿易拡大や日本企業の中国進出で両国経済が緊密さを増す中、あつれきも強まっていることから、幅広い意見交換の場として設けられた。2007年12月以来、2回目。
食品問題での通報態勢整備など11分野で合意文書を取り交わしたが、注目すべきは、中国で横行する模倣品被害を防止するため、両国が作業部会を新設することで合意したことだろう。
中国では家電、日用品から、CDやDVDといった娯楽作品まで模倣品や海賊版が出回り、日本製品に対する知的財産権の侵害問題が深刻化している。財務省が発表した偽ブランド品などの輸入差し止め件数でも中国から持ち込まれた物品が大半を占める。両国の協議機関で関連法の整備や模倣品取り締まり態勢が進むことを期待したい。
一方、中国が来年5月からの導入を目指す情報技術(IT)製品の新たな強制認証制度については、日本側が撤回を迫ったが、中国側は明確な対応を示さず、継続協議となった。
外国製のセキュリティー関連のIT製品について、設計情報の開示を義務付けるもので、認証を受けなければ、中国国内で製品を販売できなくなる。日本政府や産業界は技術情報が流出する恐れがあると反発しており、日中間の経済関係を悪化させる新たな火種ともなろう。
未曾有の不況に悩む日本経済の中国依存は今後も強まりそうだ。重要な貿易パートナーとして緊密な関係を構築していくためにも、粘り強い対話で懸案問題の解決を急ぐ必要がある。
(2009年6月9日掲載)