【第33回】 2008年04月07日
ベビーパウダーも危ない! アスベスト被害急増の恐怖
被害を拡大させた厚労省の安全宣言
そこで晴美さんは、進さんの職歴を調べ始める。同僚への聞き取り調査からベビーパウダーに行き当たって夫のアスベスト被害を確信し、2006年3月末に労災申請に踏み切った。
ところが、会社側はアスベストの使用を否定。約半年後、三鷹労働基準監督署はほとんど調べもせずに不支給決定を出す。晴美さんはこれを不服として審査請求し、紆余曲折を経て冒頭のように認定を勝ち取った。
タルク問題に詳しい東洋大学の神山宜彦教授は、1975年に環境庁の研究事業でベビーパウダーを調べ、一部にアスベスト含有商品が存在することを発表している。
「当時、タルクは危険物としてはまったく認知されていなかった。タルクとは名ばかりで、アスベストのほうが多く含まれている粗悪品さえあったというのに」と、神山教授は打ち明ける。
それから10年あまり、1986年にベビーパウダーの一部商品にアスベストが混入している事実が、ようやく新聞で報じられた。翌87年には国会でも問題化したが、当時の厚生省は「安全性の面では問題はない」と断言した。
にもかかわらず、一方ではタルクを危険物として管理するよう求める通達を87年11月に出していたのだから、矛盾も極まれりである。行政の矛盾によって、タルクに含まれるアスベスト曝露問題は長く野放しにされてきた。
現在でも厚生労働省は、「タルクは適切に管理されている」と言い続けている。それゆえ、タルクによるアスベスト被害では、冒頭の進さんの事例のように、会社側が因果関係を全面否定することが少なくない。
2005年7月以降、タルク関連の労災申請にかかわってきた「ひょうご労働安全衛生センター」の西山和宏事務局長は、「どの会社もタルクを使用していたことは認めるのですが、『安全です』『因果関係はない』と非協力的でした」と内情を暴露する。
たとえば住友ゴム工業と三ツ星ベルトのケースでは、2人の元労働者が共に中皮腫で死亡している。アスベスト被害であるのは明白だった。しかし、両社ともタルクは安全と主張する一方で、安全性を裏づけるデータは示さない。結局、1人は労災認定、もう1人は別の法律によって救済されることになった。
2005年10月にはガンツ化成が製造する接着剤に含まれるタルクから、2006年10月には京セラの工場でセラミック製造に使用するタルクから、それぞれ基準を超えるアスベストが検出された。これらの工場でアスベスト曝露による被害は生じていないが、黙って見過ごせる状況ではない。
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