Thinking TODAY
[ 2009.6.5 ]
NHK あすの日本:低所得化の進展、35歳世帯平均収入は400万円台
政策・経済研究センター 主席研究員 白石浩介
バブル経済の崩壊を契機とする低成長時代の到来により、雇用面で最も打撃を受けた35歳世代。非正規雇用が続いた人たちの就業や生活の困難は広く知られているが、今年3月に実施したアンケート調査(『35歳1万人調査』)※1からは、正規雇用者であってもこれまでの35歳とは異なる状況にあることが判明した。低所得化の進展である。
世帯年収に関するアンケート結果によると、世帯収入は400万円台(18%)と回答する人が最多で、これに500万円台(17%)、300万円台(13%)が続く。夫の年収は300〜600万円台。妻は専業主婦かパートで、パートの場合には100万円前後の収入を得ているという回答が多かった。
働くうえでの不安に関するアンケート結果では、収入の伸び悩みを挙げる回答が正社員でも69%に達しており、会社の倒産(42%)、賃金カット(35%)がこれに続いた。また今後の生活展望に関するアンケート結果によると、あまりそう思わない(32%)、そう思わない(18%)となっており、このまま働いても生活が良くならないと考える悲観派が全体の50%を占めていた。年齢の上昇につれて収入が伸びることが、半ば当然のことだと受け止めていたこれまでの世代に比べると、雇用や収入にかつてない不安を抱えているのが現在の35歳世代なのである。
働き方に関しては、1つの会社に長く勤めたいという希望が強いにも関わらず、実際には転職回数が多いという実情が分かった。望ましい働き方に関する設問に対しては、1つの会社で専門家として仕事をする(38%)が最多であり、1つの会社で管理職となる(12%)、1つの会社で経営層になる(8%)を加えた長期雇用派は全体の6割を占めた。しかし、実際の転職経験を尋ねてみると、転職経験なしは4割にとどまり、転職経験者は全体の6割にのぼる。さらに注目すべきは、転職回数が多い方が世帯年収が少ないという結果だ。つまり転職は、収入上のステップアップにつながっていないのである。若者層においても終身雇用制は過去のものになりつつあり、最初に就職した会社で業務経験を積み、その経験をその後の職業人生の備えとすることは困難になっている。
現在の35歳世代には、今後30年間近くの職業人生が残されているが、その前途は多難である。彼らは親の世代などに比べると、収入が伸びない、独身のままである、転職を繰り返すなど、所得や就業環境の不安定化が予想されるからだ。
さらに、わが国における雇用システムの将来像がはっきりしていない点は不安感の原因につながる。よく主張される将来像は、かつて日本が世界から羨望された中流社会の復活であるが、産業構造の転換、アジア諸国の追い上げ、日本人自体が昔に比べると勉強しなくなったといった点を考えると、そのハードルは想像以上に高い。
若年層の失業問題に苦しんだ欧州では、1990年代から「人への投資」を重点課題として掲げ、それまでの失業手当の支給から、職業訓練を中心とした積極的雇用政策に舵を切っている。これに対してわが国で積極的雇用政策が注目されはじめたのは、最近の数年間のことである。今後は、訓練メニューの充実、生活支援との接合、企業サイドへの働きかけなどが必要だ。
環境や福祉を起点とする新産業も重要だがより、まずは新たな雇用機会を創り出す努力が求められる。低所得であっても日々の生活に豊かさを感じ、仕事に誇りがもてる環境を構築する必要があるだろう。
※1: | 1973年生まれの35歳人口は198万人である。35歳は、1971〜74年生まれの団塊ジュニア(全体で784万人)の中でも最多の人口集団であり、団塊ジュニアを代表する層としてアンケートを実施した。(三菱総合研究所推計値) |
NHKスペシャル「“35歳”を救え あすの日本 未来からの提言」 |
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