女はなぜ昔を忘れないかAERA6月 8日(月) 12時 6分配信 / 国内 - 社会記念日好きなのも「思い出し怒り」も、みんなしくみが違うから。 お互い平和に暮らすための、基礎知識。── 「5年前にも、こんなことがあったでしょう!」 夫婦ゲンカをしていたトオルさん(34)は、妻(33)からそう言われ、最初はわけがわからなかった。 そもそもケンカのきっかけは、数日前に会社の上司に誘われ風俗に行ったのがバレたこと。土下座して頭を畳にすりつけて謝っていたら突然、冒頭のセリフが飛び出したのだ。 5年前──!? そんなはずはない。あの夜、部長に誘われて行ったのが最初だ。 「(風俗は)はじめてだけど」 驚いて主張するトオルさんに、妻は声高に返してきた。 「若い子と飲みに行ったじゃない!!」 そして、店の名前から女性の名前、季節、曜日、帰宅時間、酔い具合、携帯電話をチェックしたこと……、妻の話は微に入り細をうがった。 5年前に行ったのは、安い居酒屋。それも会社の同僚の子とただ飲みに行っただけだ。 ■12年前の宿泊料金まで 「それよりも驚いたのは、僕はすっかり忘れていたけど、5年前の出来事を妻があそこまではっきり覚えていたこと。女性って、恐ろしいですね」 女性は昔の出来事を、まるで昨日のことのように覚えている──。トオルさんは驚くが、話は彼の妻だけに限らない。 40代の女性はこう話す。 「12年前の結婚記念日に旦那と箱根に旅行に行って、奮発して1泊3万8000円の貸し切り露天風呂付きの部屋に泊まりました。なのに、旦那は何もしてくれなかった」 宿泊料金まで覚えているのだ。 そういえば、筆者の妻(33)も、過去の出来事をびっくりするほど記憶している。たとえば、二人の出会い。6年前に私たちははじめて会ったが、妻はその場所はもちろん、当時の私の髪形にメガネのデザイン、ベージュのパンツにオレンジ色のTシャツを着ていたこと、自分は、上は赤いペイズリー柄のTシャツで下はジーンズ、靴はシルバーのミュールだったこと、その夜は、友だち3人で新宿にイタリアンを食べに行ったということまで記憶しているから恐れ入る。一方の私は、覚えているのは、出会った場所ぐらい。 妻は断言する。 「女は、どうでもいいようなことを覚えているの」 記憶は、情動(怒り、悲しみ、喜びなど)と関連を持つ場合に強固に保持されるという。 「恋人・夫婦仲相談所」所長、二松まゆみさんは、こう話す。 「美しい思い出も不都合な思い出も、女性はそれこそ昨日のことのように覚えています」 ■エピソード記憶も得意 日に1000件近い男女間の悩み相談をメールで受ける二松さんによれば、過去の話を持ちだすのは圧倒的に女性。男性には、あまり見られないという。 一体どうしてか。脳の働きと、関係があるのか。 東北大学大学院の山元大輔教授(脳機能遺伝分野)によれば、脳に性差はあるが、それが記憶とどう関係するかはよくわかっていない。 一般的には、大脳皮質の左半球(言語)と右半球(空間認知)の機能の違いは、男性のほうが女性より目立っているとされている。つまり、何かをしたり考えたりするとき、男性はどちらか一方の脳に負担をかけているが、女性は両方の脳を使っているということらしい。 脳の機能的な性差として、だいたいどの研究者も同意していることは、「言語能力テスト」では女性が優位、「空間的能力テスト」では男性が優位、数学の成績は男が平均では上、といったこと。さらに出来事を時系列で覚える「エピソード記憶」は、女性のほうが男性より得意といわれるが、これもまだ研究はされていないという。 心理学の観点ではどうか? 女性心理に詳しい精神科医、ゆうきゆうさんは説明する。 「生物学的に女性は子どもを産み育てる性。だから、『いつから今の男性とつき合いだしたか』とか『いつ子どもがハイハイしたか』など、過去の情報を把握しておく必要があるのです」 そのため、記念日に強いこだわりを持つのは女性に多いが、女性にとって「記念日」とは、誕生日や結婚記念日だけにとどまらない。「手料理を初めて食べた」など男性にはささいなことでも、女性にとっては十分「記念日」になってしまう。 ■そういえば前にも… 「サラダ記念日がいい例です」 歌人・俵万智さんが詠んだ短歌のこと。作ったサラダをほめられた日(7月6日)が記念日になった──。これが、「女性が昔を忘れない」メカニズムなのだ。 ゆうきさんによれば、女性が過去の話を突きつけるのは、ケンカ中が多いのにも訳がある。 「男性は物事を事実で記憶し、そこに感情が付随する。一方、女性は感情で記憶して、そこに事実がくっついているのです」 たとえば男性は「海といえば、去年○○海岸に遊びに行ったなあ、楽しかったな」と考える。だが女性は、「楽しい」→「こんな感じ前にもあった」→「そうだ、去年海に遊びに行ったんだ」という具合に思い出す。 「ですから、女性はケンカして悲しい気持ちになっているときは『そういえば前にも……』と、イヤな経験を思い出し、結果、連鎖的に男性が怒られることになるのです」 ケンジさん(35)の場合、妻とケンカになると決まって言われるのが、この一言。 「だいたいあなたは、センスがないのよ!」 結婚前、ケンジさんは妻の誕生日のプレゼントにネックレスを買った。面倒なことが嫌いなケンジさん。それでも喜んでもらおうと、デパートで探して買ってきた。渡すと妻は「ありがとう」と笑顔で言った。喜んでくれているとばかり思っていた。だが結婚3年後、ケンカの勢いで、妻は言った。 「私は、オープンハートのかわいいのがほしかったの。なのに、なに、あの趣味の悪いネックレスは」 あのときは嬉しくなかったが、我慢して微笑んだのだという。以来、ことあるごとに、 「センスが悪いくせに」 とケンジさんを攻撃する。 「もう、いい加減にしてくれ、と思いますよ。男のほうは、妻のイヤな面なんて、とっくに忘れているのに」 もっとも山元教授によると、男性が過去の出来事を忘れるのには理由があるらしい。 とりあえず気分転換 女性は色々なことを覚える際、具体的なモノや事象との関連で捉えて記憶する傾向がある。対して、男性はより抽象化、一般化する傾向があるという。 「ただこれは『男が賢い』のではない点に、ご注意下さい」 つまり、男性は事の細部を覚えていられずに忘れてしまう。そのため細部の話になると「そうだったかな」となりがち。 「要するに、男はバカだから忘れるということです」 身もフタもない話だ。 が、つまりは誰もがいつ、修羅場に巻き込まれるかわからない、ということだ。過去の話で女性から責められたとき、どう対処すればいいのか。 精神科医のゆうきさんは、とりあえず女性の気分を変えてしまうこと、と助言する。 男性同士なら論破すればいいが、女性は理屈で反論しても意味がない。気分を変えることができなければ、事態は変わらないからだという。 「手っ取り早いのは、女性がイライラし始めたと思ったら、外出中なら『何か食べない?』と店に入ること、家なら飲み物やお菓子を出すことです」 (文中カタカナ名は仮名) ライター 野村昌二 (6月15日号)
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