きょうの社説 2009年6月9日

◎全国学力テスト 「公表」求める声にこたえよ
 政府の規制改革会議が行った全国学力テストの学校別結果公表に関する調査で、保護者 の7割近くが「公表すべきだ」と答えた。保護者がわが子の学力を正しく把握し、問題に対処したいと願うのは当然のことであり、私たちも積極的に公表することによって学校現場に奮起を促し、学力指導の改善に役立てるよう主張してきた。学校と家庭が問題意識を共有し、学力向上の機運を高めるために全国学力テストをもっと有効に活用したい。

 国際的な学力比較調査などで、日本の児童生徒の学力低下が著しい。全国学力テストが 約40年ぶりに復活したのは、「ゆとり教育」の反省に立ち、子どもたちの切磋琢磨を促し、学力向上につなげるためである。テスト結果を分析して、教委や学校が真剣に教え方を工夫し、学校教育の改善に一歩踏み出すことが重要なのである。

 保護者へのアンケートと同時期に実施した全国の市区教育委員会への調査では、9割近 くが「公表すべきでない」と回答した。保護者の思いとはまったく逆の結果である。これは市町村や学校の自主的公表以外を認めない文科省の方針に配慮しての回答だろう。

 だが、試験結果の公表が「学校間の序列化や過度の競争を招く」という文科省の主張は 空疎で、説得力に乏しい。高校進学の際、受験可能な高校は事実上、成績によって決まる。高校段階では、学校間の序列化が当たり前になっているのはやむを得ないが、小中学校の序列化は大いに問題があると言いたいのなら、小中学校の段階で、学校別に大きな学力差がないかを知るリトマス紙として、全国学力テストを活用すればよい。そうした事実があったとしたら、保護者と学校、教委が危機感を共有し、成績の引き上げに一丸となって取り組んでほしいのである。

 公表せずに、「序列化」の事実を隠し通すことの方がよっぽど問題であり、児童生徒や 保護者のためにならない。「多大な公費が投入されているのに、それに見合う情報が国民に開示されていない」とする規制改革会議の指摘はもっともである。文科省は積極開示の方向へかじを切るべきだ。

◎白山にライチョウ 謎多いが、夢広がる発見
 国特別天然記念物で絶滅危惧種のライチョウが白山で66年ぶりに確認された。北アル プスなど他の生息域から移動した可能性が指摘され、現時点では定着しているとは言い難いが、分散飼育が決まったトキとともに、石川で絶滅した種がよみがえる夢を与えてくれる話題である。トキが里山再生のシンボルなら、ライチョウは日本の貴重な高山帯の象徴的な存在と言ってよいだろう。今回の発見を、郷土の豊かな自然を見つめ直すきっかけにしたい。

 ライチョウは北アルプス、乗鞍岳、南アルプス、御岳山の4カ所に生息し、その数は山 岳開発や登山ブームなどの影響で2千羽以下に減少したとの指摘もある。地球温暖化による山岳生態系の変化で将来的に減少が危ぶまれている。

 このため、専門家の間ではライチョウがかつて生息した白山への移住を検討すべきとの 声がある。今回の発見でそうした提案が現実味を帯びる可能性もあるが、個体数減少に備えた将来的な選択肢の1つとして、白山が将来にわたって生息にふさわしい環境を維持できるかという視点で調査する意味はある。これを機に富山、長野県などとライチョウ保護のネットワークを強化し、連携を密にしたい。

 ライチョウは富山、長野、岐阜3県の県鳥だが、白山も生息地として知られた存在だっ た。加賀藩5代藩主前田綱紀が生態調査を実施したほか、江戸期の紀行文には「越の白山に雷の鳥あるといふ」と記述され、「白山の霊鳥」とも紹介されている。明治から大正期にかけて絶滅に向かったとされるが、その原因は天敵にやられた可能性や乱獲、感染症拡大など諸説あり、謎に包まれたままである。

 今回確認された成鳥の雌は飛翔能力からして北アルプスなどから直接飛んできたとは考 えにくく、山伝いに移動したとみられる。今後の定着も含め、その行動は不明の部分が多い。

 だが、従来の生息域に何らかの変化が生じ、行動範囲にも影響を及ぼしているとすれば 白山で新たな目撃情報が出てこないとも限らない。登山者にも協力を求め、謎を一つ一つ解明していきたい。