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平和のシンボルながら、鳩(はと)の闘争心は侮れないらしい。伝書鳩が一目散に巣へ帰ろうとするように、ねぐらや縄張りへの執着が強く、これを侵そうとする者とは戦う。しかも、なかなかあきらめないという▼縄張り、いや所管の日本郵政社長人事で、鳩山総務相が名前に負けない「執念」を見せている。かんぽの宿を売り飛ばそうとした西川社長の続投は許さん、だって正義のためだもんと、すごい力みようだ。盟友に大見えを切られた麻生首相は、またもや指導力をうんぬんされかねない▼この状況、兄の鳩山民主党代表は「2羽の鳩が総理を襲っている。1羽は正面からつつき、もう1羽は中からえぐりとる戦い」と評した。野鳥観察者のごとき物言いはさておいて、政権を内外からついばむ兄弟鳩の例えはえぐい▼政変に加担するつもりはあるまいが、弟がその「正義」を貫こうとすればするほど、兄を利することになる。血は水よりも濃いという。そのうち友愛兄弟党でもつくる気かいと、永田町の雀(すずめ)は騒がしい▼年子で、学年でいえば二つ違い。40年前、東大在学中の鳩山兄弟は、学生と機動隊が激突した安田講堂事件を体験した。保守政治家の息子たちらしく、兄の記憶によれば、近くの料理店の2階で一緒に攻防戦を眺めていたそうだ▼国会議事堂をめぐる攻防が佳境に入る。二人は敵味方に分かれて戦火のただ中にあり、今度は高みの見物とはいかない。兄鳩らが目を丸くして見守る中、伝書をつかさどる会社にポッポと湯気を上げる弟鳩。どこへ飛んでいくのやら。