政界は心肺停止状態に陥る:永久寿夫(PHP総合研究所常務取締役)(2)

Voice2009年5月26日(火)17:27

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自民の巻き返しが進み、自民が浮動票の7割、民主が3割を獲得したとすると、自民263、民主166となるが、やはり自公合わせて3分の2には至らない。いずれの場合も、衆院に優位性がある予算、首相指名、条約の承認以外については、なかなか結論が出ないことになる。

浮動票が民主に流れる一般傾向を考慮し、自民がその3割、民主が7割を確保した場合、自民191、民主239となり、民主が単独でほぼ半数を確保する状況となる。だが、民主が単独過半数をとっても参議院では単独過半数(122超)を獲得していないため、国民新党・新党日本・無所属合計9名を含めた現在の会派118名に加え、社民などとの連立が必要となる。

整理すると、(1)自公が過半数を占めるが、3分の2には至らず、「ねじれ」国会のなかで現在より弱い自公連立政権が誕生する。(2)民主が衆議院で単独過半数、あるいはそれに近い議席を占め「ねじれ」国会は解消するが、社民などとの連立政権となる。自公合わせて3分の2の確保は、現状からは予想できない。

また、自民と民主が大連立を組んだり、もともと主張が近い民主と公明が連立を組んで両院で過半数を占めるケースも想定できるが、自公連立を前提とし、自民政権か民主政権かを選択する選挙の下では、そのような組み替えは有権者に対する裏切りであり、世論の批判は免れないだろう。

このような政治状況は民意の反映ではあるが、国民にとって望ましい姿ではない。自公与党の場合は、野党から大きな譲歩を迫られることになり、結果として、虻蜂取らずで効果の薄い政策が実施されたり、同じ結論に至るために多大な時間的コストを費やすこととなる。

民主が政権をとっても社民あたりと連立を組まねばならず、社会保障関連はともかく安全保障の面で妥協点が見出せるようには思われない。

かつて自社さ連立政権で総理となった社会党委員長・村山富市は、「非武装中立」という観念論的な党是を一転して自衛隊を合憲とした。旧社会党系の民主の「左派」はいまさら何もいわぬだろうが、「右派」を民主に排除し、いまだ非武装をめざす現在の社民党が態度を変えるとは考えにくい。いわんや共産党をやである。

さらにいえば、政治が右往左往していると、霞が関に対して力が発揮できず、いわゆる「官僚主導」を許すこととなり、地方分権改革、公務員制度改革といった現在進行中の改革も道州制導入といった将来に向けた改革も、骨抜きどころか逆流する可能性がある。結局、与党になるのが自民であろうと民主であろうと、政局の渦のなかで政策の合理性が歪められ、日本国の危機的状況は改善されない。大げさにいえば心肺停止状態に陥るといえるのである。

モザイク集団の繰り返し

そもそも問題の根源は、二大政党が日本が現在直面する危機に応えるだけの政党に成熟していないところにある。自民も民主も政権維持や政権奪取が先に立ち、キャッチオールの利益代表政党に甘んじつづけている。

右から左、農漁村から大都会、老若男女とウイングを大きく広げ、全方位に利益分配を行なうことを約束して票の拡大に努めてきた。これが必要かつ可能なのは、一定の環境のなかで経済のパイ自体が拡大しているときであり、それが保証されない歴史の転換期では環境の変化に対応できなくなる。

重要なのは、危機に可及的速やかに対応しつつも、歴史観やそれに基づく思想を背景とした「国の在り方」を示す大政治にほかならない。大きな目標が示されればこそ、国民はいまの困難にも耐え忍び、希望をもちつづけることができる。

いま行なわれているのは、利害調整と対処療法の小政治である。そのような政治に国民は一喜一憂しながら政党を選択する。だから、政治の風向きが小刻みに変わる。

だが、その一方で、将来に希望をもてず、不安な気持ちで生活することになる。めざすべきところを見出せず、国民が希望をもてない国はいずれ衰亡の道を歩む。それは組織として明確な理念もなく、従業員も目先の給料の額だけを気にしている企業を想像すればすぐわかろう。

このようなことを論じても、来る衆議院選は、喫緊の経済対策の優劣を問う戦いになり、相も変わらぬ小政治が繰り広げられるだろう。期待すべきは、その選挙結果と来年の参議院選挙が大政治時代への幕開けとなることだ。

先述したように、与党が自民になろうと民主になろうと不安定な政権になり、合理的な政策をとることがいっそう困難になる。危機的状況がさらに深刻化し、何かを起爆剤に、93年の宮澤政権時代に自民党が分裂し政界再編が生じたような「地殻変動」が起きる可能性がある。

ただし、「地殻変動」が起きたとしても、既存の政党から飛び出した政治家たちが、また政権奪取をめざしてモザイク集団をつくってしまっては、同じことの繰り返しとなる。といって、理念にこだわりすぎると、社民や共産のように、いつまでたっても権力をもつまでには大きくならない。

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