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20090606

[]コンビニの店長が人の育てかたについて語ってみた

 どんな組織であっても、トップの立場にある人がだいたい口にするのが「人を使うのは難しい」という言葉だと思います。世のトップの立場の人すべてがそう思ってるのかはわかんないですが、少なくとも俺にとってはこの言葉は真実です。今日はそのへんのことについて考えてみたいと思います。

 とはいえ、俺が考えるに「人をどう使うか」というのは、結局は人間関係の特殊な一形態でしかないと思うわけで、ならばそれは方法論に帰することができるものではなく、人の数だけやりようがあるという、例の「人それぞれ」が待っています。そんで、程度の差はあれ、これはどうしようもなく真実であって、他人の意見なんか参考程度になれば上出来です。なのでここでは、俺の立場とかスペックを明確にしたうえで、参考にできるようならしていただければ嬉しいにゃん、というスタンスで行こうと思います。

 と、ここまで書いたんですが、どうやら俺の考えかたのなかに「人をどう使うか」という項目は存在しないみたいです。俺にとっては、それはすべて「人をどう育てるか」ということに含まれるらしい。つまり、重要なのは「育てること」であって、育てきったらば、あとはどうやってともに共通の目標を追っていくのか、それしか考えてないらしいです。

 

 んで、俺ですけど、コンビニの店長やって今年で16年目です。うち、最初の10年は会社組織のなかの雇われ店長として、次の2年は、同じ会社のなかなんですけど、ほぼ全権を委譲された複数店舗の統括者として、そんで、残りの4年は独立して経営者としてやっています。そんな状況なので、使う相手はほぼパート・アルバイトですね。

 で、会社組織とはいっても、店舗をいくつかやってる会社なうえに、社長がちょっと変わった人で、一般的な会社組織とはだいぶ違う印象です。俺に特殊なところがあるとしたら、アルバイト上がりでそのまま店長になってしまい、ついぞまともな、あるいは一般的な「会社組織」というものを経験したことがない、ということでしょうか。二十代からこっち、ずっとお山の大将で社会人やってきてる、ということです。

 次に、俺個人のパーソナリティですが、社会的な標準からみるとかなり対人関係に難があります。いま38歳ですけども、基本的には人間と話すことそのものが苦痛で、オフ会すらまともに参加しないような状態です。プライベートにはいっさい仕事の関係を持ち込みたくないし、まあ以前からこのブログを読んでいただいている方はご存知のとおり、ひっでえオタです。アニメやらえろげやらマンガやらの知識しか持ち合わせがないので、世間話にも苦労するありさまです。

 ただ、それだけに、俺は人を育てることを「技術」として把握している側面がすごく大きいです。複雑化したマニュアル対応ですね。そんで、人を育てるにあたっての俺の目標は「いかに最低限の手間で、一定レベルの店を運営できるだけの人材を育てるか」です。俺は死ぬまでコンビニのオーナー以上のことをやる気がないので、後継者的な人間は、そのあいだに一人か二人育てられれば充分、あとは全部自分で教えて、自分で研修する。それだけに、省力化が非常に重要になってきます。ただしこの場合の「省力化」というのは「最終的に自分が楽できる」という意味です。


 で、俺の人を育てるやりかたなんですが、ごくざっくりといえば、研修の初期で鬼のようなマンツーマンでがっちり知識を詰め込んで、あとは放任って感じです。これが成立するのは、コンビニの仕事がマニュアル商売だから、というのが大きいです。そんで、そのマニュアル作業の合間に、やっぱ客商売なんで、客相手の不定形な業務が随時飛び込んでくる。そこはもう、いわゆるOJTですね。それ以外にどうしようもない。それの繰り返しです。

 まず仕事において最低限必要な知識を叩き込む。あとはOJT。そのへんができるようになったら、次の段階で必要な知識を叩き込む。んでOJT。繰り返しです。

 まあ、基本はそれです。

 ただし、相手によってやりかたは大きく変えます。

 分類は二つです。自主性があるか、ないか。

 コンビニのバイトなんて「しょせんコンビニのバイト」なので、基本的にはモチベーションの低い人間ばかり入ってきます。少なくとも好んでコンビニを選んでバイトを始める人間はほとんどいない。モチベーションが低いということは、自分の能力に関して無頓着だということです。能力が発揮されること、仕事において高い報酬(金に限らず、ですが)を得られることにさほど興味がない。そういう前提で人を育てるわけです。

 自主性とか曖昧な言葉で嫌いなんですけども、具体的には自分の意見を持っているか、ということです。なんでもいい。たとえば「好きな食べものはなんですか」と質問したときに「バナナが好きです」と答えたとします。まあそれも自分の意見なのですが、重要なのは、このあと。「なぜバナナが好きか」ということについて、自分なりに明確に説明できること。言葉の拙さや理由のくだらなさ、反応の遅さとかはどうでもいい。とにかく「なぜ」という思考法を持っていること。これが重要です。そして、これは俺の私見だと特に強くことわっておきますが、この「なぜ」を問う能力は、ほとんど育てることが不可能です。そんで、これもつくづく思うんですが、「なぜ」を問える人間が実際に仕事ができるかっていうと、別にそうでもないです。どっちかっていうと「なぜ」を問える人間は内省的で、特に学生の段階では自信のない、どちらかというと気弱なタイプであることも多いんで(もちろんそうでない場合も多々あります)。だから俺のいう「自主性」は、通常の意味とはやや違ってますね、これ。

 頭の回転の速さについては、仕事の習熟でカバーできる領域です。しかし自分の力で考える能力は、努力ではどうしようもない。

 なので俺は、人を育てるにあたって、まず二つに分けてしまうんです。


 「なぜ」を問える人間に対しては、俺はほぼ叱るということをしません。徹底して「なぜ」を問います。問い詰めになることを回避するために「俺はこう思うのだが、君はどう思うか」という話法を使うことが多いです。つまり「物事には正解はない」という前提で仕事を教えていきます。もちろん、実際問題としては経験の長い俺のほうが妥当であることが多いのですけれど、俺自身がその解答について「あくまで現時点の、暫定的な正解だ」としか思ってないので、その点を正直にいいます。もし「なぜ」は問えるが頭の回転はそんなに速くない、あるいは自信のないタイプだったりする場合、教育にはてしない時間がかかります。もう、それは覚悟のうえです。途中でやめられても泣かない。

 そしてこのタイプの人に俺が必ず言うのが「俺は君が仕事をよくできるようになるための道具だから。うまく利用しろ」ってやつです。「理想はここだ。そしてその理想に到達するための方法は無限にある。とりあえずみんながばらばらの理想を求めたら店はばらばらになってしまうので、理想は俺が決めた。やりかたは自由。効率のいい方法は俺が知ってるが、君が納得できないと意味がない。仕事における自分の成長を実現するために、うまく知識の宝庫である俺を使え」というような。

 もっとも、実際は、店が客にあわせて動くものである以上、理想なんてそのときどきで変わります。コンビニなんで、究極的には「地域のお客さまの役に立つこと」だけが理想ではあるんですが「そのために店はどうであればいいのか」というのは、もう、場所によって、時代によってさまざまです。

 んで、教える俺と、相手の知識、人生経験のレベルに差があるほど「俺が決めてやる部分」を大きくする。そんな感じです。相手が成長するに従って、俺はどんどん後退していく。そんなイメージ。

 つまり、原則は「対等」なんです。もちろん俺が経営者で、相手がバイトである以上、この場合の「対等」なんて建前にしかならないんですが、建前だろうがなんだろうが、とにかく俺は「理念」だけを掲げて、あとは相手に任す。そういう流れになります。


 では「なぜ」を問えない相手の場合はどうするのか。

 基本的には「四の五の言わずにやれ」になります。たぶんほかの店では考えられないような細かい部分までマニュアル化してると思います。ただ「なぜやる必要があるのか」という説明は、相当に執拗です。ちなみにこの場合の「なぜ」は「お客さんにとってどうであるのか」という一点突破のみです。実際には客にとって意味がない、店にとっての効率だけの問題でやることであっても「お客さんのため」という一点突破で理由でっち上げます。「なぜ」を問わない人にはそれで通じるからです。逆に理由が複数あったりしちゃいけないんです。わかりにくくなっちゃいますから。

 このタイプの人を育てるにあたっての「わかりやすさ至上主義」というのを俺は持っています。たとえば「元気のいい店にしたい」となったら、声でかくすればいいんです。声のトーンも感じのよさも関係ねえ。でかけりゃいい。でかくなったら「おまえすげえ」です。自分で考えるタイプにとっての「成功体験」は「理解すること」や「理解したことが実際に意味を持つこと」ですが、自分で考えないタイプには「目標達成」なんです。だから目標は可能な限りわかりやすいほうがいい。理由もシンプルでいい。

 そんで、大声大会になったら、次は「こうすれば、もっと感じよくなるぜ」です。そこで初めて次の段階に進ませるんです。

 同じ手間をかけるにしても、前者については「考えさせる手間」を。後者については「到達目標を細かくする手間」を。

 ちなみに、自分で考えない人に対する「褒める」「叱る」ですが、褒めるのは目標達成のときです。褒めかたについても俺は完全にパターン化していて「おまえはすごい」の一点張りです。もちろん言いかたにはバリエーションはありますけど、基本的にはこれだけです。そんで「おまえがすごいので、店もすごい」です。

 叱るほうについては、細かくマニュアル化してるので、それと違うことをやったときになりますが、そのときでも基本的には叱りません。「やりかたが違うみたいだから、もう一度教える」です。ただし「3回教えてまちがったら、そのとき俺はぶちキレる」という前提でやってます。マニュアル化してるということは、個々の仕事はさほど難しくないということで、ふつう3回聞かされたらいやでも覚えざるを得ません。それでも同じミスを繰り返すということは、覚える気がないんだと断言してしまっても、まずかまいません。


 さて。ここまでのところ、新人育成にものすごい手間をかけているようです。実際、他店とは比較にならないほど、俺の教育の負担は重たいです。でもこれ、実は俺の手抜きのために考案したやりかたなんです。

 というのは、コンビニの店長や経営者をやってていちばん怖いのは「寝れない」ということだからです。24時間営業なんで、いつトラブルがあるかわからない。だったら、どんな初期投資を払ってでも、がっちりと育成したほうがあとが楽だからです。俺は多店舗展開とかはまったく考えてないので、突出した人材よりも「平均レベルを上げることでトラブルを減らす」方法を選択しています。これがその結果です。

 平均レベルを上げておけば、店の全員が「仕事に向かう」という姿勢を作れます。そして「仕事のために、いま自分はここにいるんだ」という思いが強ければ、人間関係のトラブルが格段に減ります。なぜなら、アルバイト間の人間評価の基準が「仕事できるかどうか」に偏るからです。

 まあ自己申告なんで意味はないですが、俺のやってる店は、そこそこレベル高い。しかしそのレベルの高さというものは、実は、対人関係をうまく回す能力がない俺が、人間関係をメンテしなくて済むようにその方向に持っていった、というのが実情です。

 「初期のモチベーションがあまり高くない」「入れ替わりが激しい」「自分が店にいない時間が長い」という条件下で、どうやったら「本来だれともしゃべりたくない」自分が最大限楽をして商売できるか。そのためには仕事に対して意欲的なアルバイトを育てる以外に方法がなかったのです。


 ちなみに、ここまでやっても、どうやっても技術では解決できない問題が3つばかりあります。

 ひとつは、それでも発生してしまう人間関係のトラブルについて。人間の集団にトラブルが絶無っていうのはまずありえませんから。基本的にはみなが仕事に対して意欲的な状況であれば、まず人間関係のトラブルは発生しないんですが、いちおー俺は保険として、必ずパートのおばちゃんを味方につけることにしています。パートのおばちゃんも、何人か使ってると、そのなかに必ず一人はキレ者がいるんです。そういう人を見つけたら「すいませんが俺、人間関係とかぜんぜんだめなので、手伝ってください」とお願いする。餌は時給です。そういう人に、店の人間関係状況のモニタ役になってもらう。本来こうした仕事はナンバー2の仕事なんでしょうが、俺は「腹心の部下」とか持てるほど他人と濃密な関係を持ちたくないので、業務の一部として、キレるおばちゃんにこれを頼むのです。特に俺の場合、バイトの教育がはっきりとダブスタなので、そこのところのショックアブソーバとしても、話のわかるおばちゃんの存在は重要です。

 もうひとつ。バイトの経年劣化。いわゆる、仕事に対する悪い意味での慣れですね。適切に目標を設定していれば、これもそうは起こらないんですが、成功体験も一巡しちゃうと、そうそう目新しいものもないですから。

 これだけは、どうやっても技術では解決できないです。そこそこレベルの高い店で、常に客から感謝されたりして仕事してて、それが好きという人間はいい。だけど、バイトの大半は「好きでコンビニを選んだ」わけではないんです。だから、もし客商売や商品管理が好きでない人間の場合、能力が高いほど慣れは早く、モチベーションは下がりやすい。これはもう「腹割って話す」以外に方法がないです。いろいろためしたんですけど、ほんとそれしかない。ちなみに俺はこれを「説教大会」と呼んでいて、店のなかでは「ちょっと話があるんだけど、いいかな」と俺が言ったその瞬間、戦慄が走るようです。モチベーション低下の抑止力として利用してる。ただこれは結果論であって、説教大会やってるときの俺はガチです。それ以外で話の通じようがない。その結果、やめてってしまう人もいますが、これはもう、諦めるしかない。


 で、最後に。

 ここまで連綿と書いてきた文章をすべてブチ壊すようでアレなんですが。

 バイトのレベルを上げる→店の雰囲気を高める→新人が育つ、という好循環を作るために、最初に絶対に必要な条件があります。

 それは、好循環ができた、と思うそのときまで、トップの人間が死ぬ気で働くこと。仕事の鬼といわれるレベルまで働くこと。やりかたなんてどうでもいい。怒鳴り散らしてもいい。泣いたって笑ったって奇声上げたっていい。最初の人材が育つまで「俺は死ぬほどこの仕事に対して本気なんだなめんなてめーら」という気概を持って仕事することです。オープン当初の数ヶ月はバイトの定着率が異常なくらい低かったし、雰囲気も最悪なんてもんじゃなかったです。労働時間は月間で400時間以上行ってました。でも、最初についてきてくれる一人ができるまで――それは、トップが誠心誠意仕事のためだけに動いているなら必ず現れます――それをやるしかないです。

 まともに人間関係を維持できて、人と笑って会話できる人なら、たぶんここまでのことは必要ないと思う。なぜなら、ある程度の仕事に対する熱意と理想がある人なら「この人のためにがんばろう」という人は現れるからです。早い段階で腹心の部下ができると思う。

 俺は世にいうワンマンな経営者なんですが、それ以外の方法を選べなかった。

 この方法論は、その結果です。

 なんかまだいっぱい語ってないことがあるっぽいですが、また機会があれば。