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【社説】

生物多様性 名古屋議定書を目指せ

2009年6月9日

 人間の暮らしを支える生物の多様性が危うい。今年初めて生物多様性白書が作成されたのも、危機感の表れだ。来年名古屋で開催されるCOP10に向け、その保全と賢い利用をともに考えたい。

 生物多様性条約は、生き物とその生息環境を保全し、生物資源から得られる利益を公平に分配するための取り決めだ。約百九十の国と機関が結んでいる。

 来年十月に名古屋市で開かれる第十回締約国会議(COP10)は、重要な節目になる。二〇〇二年のCOP6で採択された「締約国は現在の生物多様性の損失速度を二〇一〇年までに顕著に減少させる」という「二〇一〇年目標」を評価し、新たな目標を設定しなければならないからだ。

 評価といっても、二〇一〇年目標は、何をどう達成するか、達成度をどう測るかなどは、加盟国に任されており、法的拘束力もない。特筆すべき効果は見られず、このままでは「百年以内に生物の25%が滅びる」(世界自然保護基金)という警告さえ出る現状だ。

 名古屋会議は、実効性のある目標とルールを新たに定め、生物多様性の保全に向けて国際社会と市民が具体的に行動を起こす、事実上の出発点になる。京都議定書を生んだ温暖化防止京都会議にも匹敵する重要な転換点である。

 「ポスト二〇一〇年目標」の中身は秋ごろから詰めるというのが、環境省の見解だ。

 生物資源は途上国に豊富にある。それを開発して利益を得ているのが先進国だ。目標を設定する上で、温暖化対策と同様、資金や技術移転の問題なども発生し、先進国と途上国、産業界と自然保護団体などのあつれきは避けて通れない。京都議定書策定時やその後の経験を十分踏まえ、国際的にも、国内的にも協調して取り組める仕組みづくりを目指したい。

 気がかりは認知度の低さである。地元名古屋市の昨年度の調査でも、過半数がCOP10を「まったく知らない」と答えている。「生物多様性」という言葉の難しさを訴える人も多い。

 COP10で議論すべきは、自然保護だけではない。生物資源の持続的で、賢い利用の仕方も重要だ。例えば主要な議題の一つとされる海洋保護は、漁業規制の問題でもあるし、熱帯雨林の微生物は薬の開発に欠かせない。

 食卓や健康などに直結する問題として、消費者、国民の理解と参画を広く促すべきだ。

 

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