観光旅行が冷え気味だ。海外旅行者は減り、また訪日外国人旅行者数も伸び悩む。不況が影を落としているのだが、こんな時こそ発想を新たにする好機ではないか。
政府には観光立国推進基本計画があり、2010年度達成を目標に年間の訪日外国人観光客1000万人、日本人の海外観光旅行者2000万人、国内宿泊観光旅行1人当たり4泊と掲げてきた。昨年10月には国土交通省の外局として観光庁をスタートさせた。
08年度観光白書によれば、訪日外国人旅行者は、誘致キャンペーンも奏功して03年度521万人、04年度613万人、という具合に順調に伸びてきた。しかし08年度は円高などの影響が表れ、前年度から微増の835万人にとどまった。
海外旅行の日本人は07年度には1754万人いたが、08年度には1599万人。国内観光の宿泊数は05年度1人当たり2・89泊から08年度は2・44。また07年度の国内観光消費額は23・5兆円で、これも目標の30兆円には遠い。
これまで国内旅行の牽引(けんいん)役を担ってきた60代の落ち込みが大きい。今年になって観光庁が行ったアンケートによると、いずれの世代も所得減少、貯蓄優先など経済的要因を挙げる。また休暇が減り、定年退職者も引き続き働いて、想定されたほど「余暇時間」がないという。
経済不況や雇用の厳しさ、老後の社会保障制度への不信など、社会全体の不安が観光の陰りに映し出されているといえるだろう。
海外旅行では若者離れの傾向が見えるのも気になる。例えば、20代は05年度には300万人を超えていたものが08年度には260万余。観光庁は経済的理由のほかにネットやゲームなどで、余暇の形態や好みが多様化したことも背景にあるとみる。
こうした状況で10年度目標達成は難しいが、観光行政は本来数字のみが成果ではない。人生や家族生活を内面的に豊かにするという視点で、観光庁は積極的な立案と遂行、省庁横断的な働きかけを進めてほしい。
既にその動きはある。勤労者の有給休暇の取得を促し、休暇を分散させることによって旅行機会を増やし需要を喚起する案が官民協議の中で出てきた。また旅行しにくい理由の一つに、学校に通う子と親が同時にまとまった休暇を取りにくいという実情があり、早急にこれを解決する工夫の検討も観光庁はするという。
1省の外局を超えて関係省庁や地方自治体、教育委員会などまで本気で取り組まねば実現できないことである。掛け声だけではない、内実ある「観光立国」政策か。真価が問われるのはこういうところだ。
毎日新聞 2009年6月9日 東京朝刊