オバマ米大統領はエジプトの首都カイロでイスラム社会に向けた演説を行い、米国との関係の「新たな始まり」にと訴えた。ブッシュ前政権の「テロとの戦い」などで悪化した双方の間の疑念と不和の連鎖を断ち切りたいとのメッセージだ。
イスラム社会との関係修復はオバマ大統領が今年1月の就任時から重要な課題と位置付けていた。演説の地にイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルが拠点を置くカイロを選び、共催という形で行ったことにもメッセージをしっかり伝えたいとの意気込みがうかがえる。
演説の中で大統領は、父親がイスラム教徒だったことなどイスラムとのかかわりを強調した。その上で、米国とイスラムは「相いれないものではない」とし、双方が誤った固定観念を捨て、互いに耳を傾けていく継続的な努力の必要性を説いた。
中東和平に関しては、パレスチナ国家樹立による「2国家共存」が唯一の紛争解決策であるとした。そのために、パレスチナには暴力の放棄を求める一方、イスラエルには占領地での入植地建設継続について「これまでの合意に反し、和平達成への取り組みを台無しにする」と強く中止を求めた。
さらに、イランの核開発については、阻止することが米国だけでなく中東全域の安全保障に貢献すると主張。「互いに尊重し、前提条件なしで前進する用意がある」と対話による関係改善へ前向きな姿勢を示した。
イスラム社会の強い反感を買ったブッシュ前政権の対決姿勢から一変した演説内容だった。対立するだけでは、不幸な状況を重ねるばかりである。対話によってイスラム社会の反米感情を和らげ、パートナーとして山積する難題に挑もうとするオバマ流外交姿勢には一定の評価が得られたようだ。アズハルの指導者も「文明間の対話を進めるための良い一歩だ」と称賛した。問題を解決する糸口となるよう期待したい。
しかし、長年にわたる憎しみや多くの犠牲などが複雑に絡むだけに、和解は容易なことではない。イスラエルとパレスチナの和平にしても、イスラエルに誕生した強硬派のネタニヤフ政権は「2国家共存」に否定的だ。先のオバマ大統領との会談でも言及を避けている。どう説得できるのか。「一つの演説でぬぐい去れるものではない」と自ら認めるように、厚く張った不信の氷を溶かすには主張を裏打ちするオバマ大統領の果敢な実行力が問われる。
まさに、手に汗握る一戦だった。サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会アジア最終予選A組で、岡田武史監督率いる日本代表はアウェーで対戦したウズベキスタン代表の激しい反撃を1―0でしのぎ切り、4大会連続4度目のW杯出場を決めた。
日本が先制点を挙げたのは前半9分。中村憲剛選手からパスを受けた岡崎慎司選手がシュート。相手ゴールキーパーがはじいたところを頭から飛び込み押し込んだ。「何としても勝利して南アフリカへ」という日本代表全員の思いを映した気迫あふれるプレーだった。
しかし、負けると本大会への出場が絶望視されるウズベキスタンも必死だ。後半はボールの大半を支配して何度となく日本ゴールを脅かし続けた。日本選手は体を張って阻止、総力でゴールを割らせなかった。選手たちの健闘をたたえたい。
岡田監督が、病に倒れたイビチャ・オシム前監督からバトンを受け継ぎ、日本代表を率いるようになったのは2007年12月のこと。目指してきたのは、素早い攻守の切り替え。日本人の運動量と俊敏性という特性を生かしたサッカーである。
加えてウズベキスタンに出発する前、岡田監督は選手たちに「平常心」を説いたという。アウェーの重圧の中で、落ち着いて厳しい危機に対処したことは日ごろ培った成果であり、自信となったことだろう。
日本代表にとって、W杯出場が最終目的ではない。岡田監督は、アジア勢史上最高と並ぶ4強入りを掲げる。世界の強豪相手に並大抵のことではないが、予選を通して表れた課題を見詰め直し、技や精神力、戦略を磨き達成してほしい。まずは、残る予選2試合に全力を注ぎ、1位通過で勢いをつけたい。
(2009年6月8日掲載)