膵臓(すいぞう)がんや大腸がんの細胞と回虫などの寄生虫で、エネルギーを作り出す代謝方法が同じ可能性が高いことが慶応大先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)と国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の共同研究で分かった。虫下しが人体に影響を与えず回虫だけを死滅させるように、副作用の無い抗がん剤が開発できるかもしれないという。研究所の曽我朋義教授(分析化学)は「他のがんについても調べたい」と話している。
生物の細胞は一般的に酸素を取り入れ「クエン酸呼吸」でエネルギーを得る。しかし回虫は酸素の乏しい小腸に入り込むとフマル酸から変換したコハク酸を高濃度に蓄積しエネルギーを生産する「フマル酸呼吸」で代謝する。一部の虫下しはこれを応用してフマル酸からコハク酸への変換に必要な酵素を攻撃し、フマル酸呼吸を不可能にすることで、人体に影響を与えず回虫だけを死滅させる。
一方、膵臓がんや大腸がんなどのがん細胞は、回虫と同様に周囲に血管がなく酸素が乏しくても活発に増殖する。同病院はこれに着目。04年に虫下しを悪性の膵臓がんの細胞に投与したところ、がん細胞が死滅した。
この結果を受け、研究所が代謝物質を網羅的に分析する「メタボローム解析」で大腸がんの細胞を調べた結果、回虫がフマル酸呼吸をした時に見られるコハク酸の高濃度の蓄積が、大腸がんの組織でも起きていることを突き止めた。
胃がんや肺がんの細胞はフマル酸呼吸はしていないとみられるという。【林奈緒美】
毎日新聞 2009年6月3日 東京朝刊