翻訳 井上雅夫 1998.06.03; 1999.02.14   ↑UP 

マイクロソフト独禁法事件
95.08.21

DISTRICT OF COLUMBIA合衆国地方裁判所
原告 アメリカ合衆国
被告 MICROSOFT CORPORATION
民事訴訟94-1564

ファイナルジャッジメント

 原告アメリカ合衆国は、1994年7月15日、訴状を提出し、原告および被告は、それぞれの代理人によって、事実又は法律問題のトライアル又は判決なしに;また、このファイナルジャッジメントが事実又は法律問題に関して当事者による証拠又は自認を構成することなしに、このファイナルジャッジメントの登録に合意した[訳1]

 今、それゆえに、証言がなされる前に、そして、事実又は法律問題のトライアル又は判決なしに、そして、両当事者の合意に基づき、これにより、

 以下のとおり命令され、判決され、及び布告される。

I.管 轄 権

 本裁判所は本件訴訟の事物管轄権及び被告Microsoft Corporation(「Microsoft」)の対人管轄権を有する。原告は被告に対してシャーマン法(15U.S.C.)第1条、第2条(LII)に基づく救済を主張している。 

 
II.定  義

 1.「適用製品<Covered Product(s)>」は次の(i)〜(vi)の製品のバイナリコードを意味する:(i) MS-DOS 6.22、(ii) Microsoft Windows 3.11、(iii) Windows for Workgroups 3.11、(iv) 前記製品の以前のバージョン、(v) 現在「Chicago」[訳2]というコードネームで呼ばれている製品、及び(vi) 前記製品の後継バージョン又は前記製品の代替品として市販される製品(それらの後継バーション又代替製品が、(a)ライセンス契約に従ったOEMへの独立した<stand-alone>製品として又は(b)現在上記(i)ないし(v)の製品の中に一体化されたオペレーティングシステム機能を果たすバンドルされていない製品として利用できるように作成された、他のMicrosoftオペレーティングシステム・ソフトウエア製品の後継バージョン又は代替製品としても特徴を有するかどうかにかかわらない)[訳3]。「適用製品」の用語はMicrosoftによって開発された前述の製品の「カスタマイズ」バージョンは含まない;Windows NTワークステーション及びその後継バージョン、又は、Windows NT Advanced Serverにも適用されない。

 2.「カスタマイズ<Customized>」はコンピュータシステムの最終顧客の特別で特殊な要求に合致するためにMicrosoftによる製品の実質的な修正を意味する。OEMによって製造されたパソコンシステムのパフォーマンスを最適化するための製品の改造は含まない。

 3.「期間」は、ライセンス契約に関して、OEMが適用製品のライセンス、販売又は配布を許される期間を意味する。

 4.「ライセンス契約」は、MicrosoftがOEMにパソコンシステムと共に適用製品を、書面又は口頭の、明文又は暗黙の、ライセンス、販売又は配布を許可するライセンス、約定、契約もしくは合意、又はそれへの修正を意味する。

 5.「ミニマム・コミットメント」は、実際の販売額にかかわらず、ライセンス契約に基づきOEMがMicrosoftに支払う最少額の義務を意味する。

 6.「一時払い価格<Lump Sum Pricing>」は、OEMによってライセンスされ、販売もしくは配布される適用製品のコピーの数、又はOEMによって配布されるパソコンシステムの適用製品のコピーの数によって変動しない適用製品のための使用料の支払いを意味する。

 7.「ニューシステム<New System>」は、システムごとのライセンスに含まれない又は選択されないシステムを意味する。

 8.「NDA」は、適用製品のプレコマーシャル・リリースもしくはそれに関連する情報の開示又は使用に制限を課す適用製品のプレコマーシャル・リリースのための秘密保持契約を意味する。

 9.「OEM」は、ライセンス契約の一当事者であり、パソコンシステム又は(マザーボードもしくはサウンドカードのような)パソコンシステム部品又は周辺装置(たとえば、プリンタもしくはマウス)のオリジナル機器製造業者もしくは組立業者を意味する。

 10.「コピーごとのライセンス<Per Copy License>」は、OEMの使用料の支払いが、(i)ライセンス契約期間中にライセンスされ、販売され又は配布される各適用製品のコピー数に、(ii)OEMとMicrosoftによって合意されたコピーごとの使用料率(その料金はおそらく IV.H.で規定されるように決定されるだろう)を掛けることによって計算されるライセンス契約を意味する。[訳4]

 11.「プロセッサごとのライセンス<Per Processor License>」は、ライセンス契約書に記載された特定のマイクロプロセッサの種類を含む全てのパソコンシステムに対してMicrosoftに使用料を支払うことを、MicrosoftがOEMに要求するライセンス契約を意味する。[訳5]

 12.「システムごとのライセンス<Per System License>」は、OEMによるMicrosoftへのライセンス契約書に記載された特定の型名又は型番を有する全てのパソコンシステムに対して、OEMのただ一つの選択として、明示された条件で、使用料をMicrosoftに支払うことを、MicrosoftがOEMに要求するライセンス契約を意味する 。[訳6]

 13.「パソコンシステム」は、ビデオディスプレイ及びキーボード(ビデオディスプレイ及びキーボードが実際に含まれているかどうかにかかわらない)を使用するために設計されたIntel x86、又はIntel x86互換マイクロプロセッサを含むコンピュータを意味する。

 14.「オペレーティングシステム・ソフトウエア」は、パソコンシステムの作動を制御し、コンピュータのメモリと、キーボード、ディスプレイ、ディスクドライブ及びプリンターのような取り付けられたデバイスの間の相互の作動を管理する命令、コード及び付随する情報のセットである。

III.適 用 対 象

 このファイナルジャッジメントはMicrosoft、及びその役員、取締役、代理人、従業員、子会社、継承者及び譲請人に対して;並びに個人宛又は他の方法でこのファイナルジャッジメントを実際に通知を受けた者と実際に提携又は関与する全ての他の者に対して適用する。

IV.禁じられる行為

 Microsoftは下記のことを禁止され制限される:

A.Microsoftは適用製品について、全体の期間が(契約が履行されている四半期の末から計算して)1年を超えるライセンス契約を行わないものとする。

 Microsoftは、OEMがその単独の自由裁量で元のライセンス契約の満了の前の90日と120日の間の任意の時に、追加の1年までについて、元のライセンス期間において適用されているのと同じ条件でライセンス契約を更新できることをライセンス契約に含めることができる。

 ライセンス契約は、ライセンス契約の全て又はある部分を更新しない選択に対してOEMにいかなる種類のペナルティ又は料金も課さないものとする。前記の条件でライセンス契約を更新する選択権をOEMが行使せず、新しいライセンス契約がMicrosoftとOEMの間に締結された時には、より高い使用料率を含む異なった条件の交渉はそれ自体としては前の文の意味のペナルティ又は他の料金を構成しない。

 合衆国又はヨーロッパ経済圏の中に住所を定めないOEMとのライセンス契約の期間は、その住所を定める国の規制当局の許可の前に効力を有しないが、そのような規制当局の許可のために必要とされる期間に、Microsoft又はOEMの選択で、延長することができる。

 適用製品のライセンス又は配布に係わらないライセンス契約の条文はライセンス契約の満了又は終了を超えて残存することができる。

B.Microsoftは、OEMが非Microsoftオペレーティングシステム・ソフトウエア製品をライセンス、販売又は配布することを禁止又は制限するライセンス契約を行わないもとのする。

C.Microsoftはプロセッサごとのライセンスを行わないものとする。

D.下記 IV.G.によって許される範囲を除き、Microsoftはコピーごとのライセンス以外のライセンス契約を行わないものとする。

E. Microsoftは、その契約の条件に、明文又は暗黙に、

 (i) 他の適用製品、オペレーティングシステム・ソフトウエア製品、又は他の製品(ただし、この条文はそれ自体及びその中においてMicrosoftに統合された製品<integrated products>の開発を禁じるものと解釈されないことを条件とする[訳7])をライセンスすること、又は、

 (ii) OEMが非Microsoft製品をライセンス、購入、使用、又は配布しないこと、

を条件とするライセン契約を行わないものとする。

F.Microsoftはミニマム・コミットメントを含むライセンス契約を行わないものとする。しかしながら、これは使用料の支払いの計算に使用するためにMicrosoftの適用製品の計画販売額の拘束力のない見積をMicrosoftとOEMが行うことを禁じるものではないものとする。

G.適用製品のライセンス契約からのMicrosoftの収入はこの中で定義されたコピーごと又はシステムごとのライセンス以外から由来しないものとする。システムごとのライセンスにおいては:

 (i) ライセンス契約を締結する条件として、又は数量割引等の適用を目的として、明文又は暗黙に、システムごとのライセンスのもとに、OEMがそのパソコンシステムの中の一つを超えて含めることを、Microsoftは要求しないものとする;

 (ii) Microsoftは、いかなるパソコンシステムに対しても適用製品のための料金又は使用料の徴収を、そのパソコンシステムがライセンス契約書又は文書による修正においてOEMによって選択されていない限り、行わないものとする。 Microsoftはニューシステムを作成するOEMに、OEMが内部的及び外部的確認の目的のために使用する特有の型名又は型番を作成する以外、ニューシステムの存在をMicrosoftに通知するよう又はニューシステムの市販又は宣伝に関して特別な行為をとるよう要求しないものとする。外部的な確認の要件はマシン及び(もしあれば)包装上に特有の型名又は型番を配置することだけよって満足され得る。OEMとMicrosoftはシステムごとのライセンスにパソコンシステムのニューモデルを含めるようにライセンス契約を修正することを合意することができる。この条項はMicrosoftがライセンス契約違反又は著作権法違反の適用製品のコピーを作成又は配布したOEMに賠償金を請求することを排除するものとみなされないものとする;

 (iii)ライセンス契約はいかなる時でもニューシステムの作成をOEMが選択したことを理由としてペナルティ又は料金を課さないものとする。ニューシステムと共に配布するために適用製品がライセンスされそれに関して使用料が支払われべきであるようなOEMのライセンス契約へのニューシステムの追加は前の文の意味のペナルティ又は他の料金を構成するとはみなさないものとする;

 (iv)現存するシステムごとのライセンス又は IV.J.に基づきシステムごとのライセンスとして扱われるプロセッサごとのライセンスを有している全てのOEMは、このファイナルジャッジメントの登録に続く30日間以内に、太字のボックスタイプで印字された「あなたはMicrosoftのシステムごとのライセンスのもとにあります、」という文で始まり、下記の最初の4つのパラグラフに含まれている言葉が続く通知を個々に郵送される。1994年9月1日以降に実施される全ての新規の又は修正されたシステムごとのライセンスは太字のボックスタイプで署名ページ<signature page>の上半分に表示される「これはMicrosoftのシステムごとのライセンスです、」という文で始まり、下記の最初の4つのパラグラフに含まれている言葉が続く条文が含まれるものとする。[訳8]

 「顧客として、あなたは、顧客とMicrosoftがライセンス契約へそれを加えることを合意しないならば、Microsoftへの使用料の支払いを要求されない『ニューシステム』をいつでも作成することができます。」

 「作成されたニューシステムは、顧客が販売するシステムごとのライセンスに含まれるシステムからの識別用の内部的及び外部的確認の目的のために、ニューシステムが特有の型番又は型名<a unique model number or model name>を有している限り、顧客がシステムごとの使用料をMicrosoftに支払うシステムとあらゆる面で同一であっても構いません。外部的な確認の要件はマシン及び(もしあれば)包装上に特有の型名又は型番を配置することだけよって満足できます。」

 「もし、顧客がMicrosoftオペレーティングシステム製品をニューシステムに含める意図がないときは、顧客はニューシステムの作成、使用又は販売のいかなる時点でもMicrosoftに知らせる必要はなく、ニューシステムを市販又は宣伝するためにいかなる特定のステップをとる必要もありません。」

 「もし、顧客が非マクロソフト・オペレーティングシステムを組み込んだニューシステムを作成することをいつ選択しても、Microsoftのライセンス契約に基づいた料金又はペナルティはありません。もし、顧客がニューシステムにMicrosoftのオペレーティングシステムを含めることを意図するときは、顧客はそのようにMicrosoftに知らせなければならず、その後、両当事者はニューシステムに適用するライセンスに関して交渉に入ることができます。」


 IV.J.に基づきシステムごとのライセンスとして扱われるプロセッサごとのライセンスを有するOEMの場合は、通知はその最初の部分に次のパラグラフを含むものとする:

 「あなたのプロセッサごとのライセンスによってカバーされる全てのモデルは、現在、システムごとのライセンスに従って扱われています。あなたは、書面でMicrosoftに通知することによって、いかなるモデルもシステムごとのライセンスから除外することができます。Microsoftへのその通知はシステムごとのライセンスから除外されるモデルの名称を含まなければなりません。その除外はその通知をMicrosoftが受領したときに続く次の四半期の最初の日から効力を有するものとします。」
H.Microsoftは、このファイナルジャッジメントの日の後に実施される適用製品のライセンス契約において、一時払い価格の形式をとることができない。Microsoftが、各個別のOEM、適用製品の各特定のバージョンもしくは言語、及びライセンス契約に従い各選択されたパソコンシステムに関して、あらかじめ合意された数量割引を盛り込んだ料金を含む使用料率を使用することはこのファイナルジャッジメントの違反ではない。

I.このファイナルジャッジメントの条項と一致しないライセンス契約を現在有しているOEMは、ペナルティなしに、ライセンス契約を終了させるか、あるいは一致しない条項をライセンス契約から削除するように修正するためにMicrosoftと交渉することができる。ライセンス契約を終了させ又は修正することを望むOEMは1995年1月1日の前のいつでも90日間をMicrosoftに与えて書面で通知するものとする。

J.OEMがこのファイナルジャッジメントの条項と一致しないライセンス契約を有しているときは、Microsoftはそのライセンス契約を次に従って実施することができる:

(i)もし、ライセンス契約がプロセッサごとのライセンスであれば、Microsoftは、OEMが書面で除外することを選択しその除外がその通知のMicrosoftの受領に続く次の四半期の最初の日から効力を有するものとなるモデルを除き、ライセンス契約書中に記載されたマイクロプロセッサを含む現存するOEMのモデルのためのシステムごとのライセンスとして扱うものとする;そして

(ii) Microsoftはミニマム・コミットメントを将来的に実施することはできない。

K.Microsoftは下記のNDAを締結しないものとする:
(i)その期間が (a) NDAによってカバーされる製品の商業的リリース、(b) NDAによってカバーされる情報のMicrosoftによって許可された早期の公開、もしくは (c) NDAによってカバーされた情報のNDAに従う者への公開の日から1年のうちの最初に来る日を超えて延長する;又は

(ii) NDAの期間の間Microsoftの所有する情報の開示又は使用を伴わないことを条件として、NDAに従う者に対して競合するオペレーティングシステム・ソフトウエア製品上で走るソフトウエア製品を開発することを制限する;又は

(iii) NDAによってカバーされる情報が開示されていないNDAに従う者の活動を制限する。

L.標準的なNDAの形式はMicrosoft社の役員によって承認され、前記 K.でカバーされる事項に関するNDA中の全ての非標準文言はMicrosoftの上級社内弁護士によって承認される。

M.このファイナルジャッジメントの登録の30日以内に、Microsoftはこのファイナルジャッジメントのコピーを、少量イージー・ディストリビューション(SVED)プログラム又はディリバリ・サービス・パートナー(DSP)プログラムにのみ基づいてライセンスを有している者を除き、その時点でライセンス契約を有している全てのOEMへ提供する。

V.報  告

A.このファイナルジャッジメントへの応諾を保証するために、原告の正当な権限を有する代理人は、独占禁止局副局長の書面による要請のもとに、被告の主要な事務所で交付される正当な通知に基づき、法的権限に従い、次のことが許される:

1.通常の勤務時間内に、全ての書籍、元帳、口座、書状、メモ及びその他の被告(弁護士が立ち会うことができる)が所有、管理又は支配するこのファイナルジャッジメントに含まれる全ての事項に関連する文書又は記録にアクセスすること。

2.被告の正当な都合に従い、被告からの抑制又は干渉なしに、被告の役員、従業員又は代理人に(弁護士が立ち合うことができる)、このファイナルジャッジメントに含まれる全ての事項に関して、インタビューすること。

B.独占禁止局副局長の書面による要請のもとに、被告の主要な事務所で交付される正当な通知に基づき、法的権限に従い、被告は、このファイナルジャッジメントに含まれる全ての事項に関して、要請があれば宣誓付きの、報告書を提出するものとする。

C.本条が規定する手段によって得られたいかなる情報又は文書も、合衆国が一当事者である法的手続きの過程、又はこのファイナルジャッジメントへの応諾を保証する目的を除き、合衆国政府の行政府の正当な権限を有する代理人以外の者へ原告によって漏らされることはないものとする。

D.被告は45日以内に、適用製品のMicrosoftのライセンスに関するMicrosoftによる約束又はMicrosoftに対する決定への応諾の監視又は保証に関連してヨーロッパ委員会の競争局長(「DG-IV」)へ提供された文書を原告に提示するものとする。加えて、被告は、被告によりDG-IVに提出された他の情報のDG-IVによる原告への開示、又はDG-IVと原告とが本ジャッジメントの執行に関して協力することに、提供された情報の詳細な説明書をMicrosoftがあらかじめ受けること及びDG-IVから受領したMicrosoftの情報を適用法に基づいて可能な限り最大限の秘密保護を講じることを条件として、反対しないものとする。特に、原告は「秘密ビジネス情報」として受領したMicrosoftの情報を情報自由法 5 U.S.C. 552条(LII)に基づく情報の「提出者」として扱うものとする。原告は電子的な形式で提供されたMicrosoftの情報の安全と秘密を確保するために注意するものとする。

E.被告から原告へ情報又は文書を提供するときはいつでも、連邦民事手続規則26(c)(7)に基づく保護を要求することができ、重要な各関連するページに「連邦民事手続規則26(c)(7) に基づく保護要求に従う」と押印して、被告がその情報又は文書のなかで重要なものを明らかにした場合は、被告が当事者でない法的手続(大陪審手続を除く)においてその重要なものを公開する前に10日間の通知が原告によって被告へなされるものとする。

VII.ジャッジメントの更なる要素

A.このファイナルジャッジメントは登録後78月で満了するものとする。

B.管轄権は本件訴訟及び両当事者に関して、両当事者がこのファイナルジャッジメントを執行又は解釈するために必要又は適切な更なる命令及び指示をいつでも本裁判所に申し立てること、条項を修正又は終了すること、応諾を執行すること、及びその規定の違反を罰することを両当事者のどちらもが可能とするために、本裁判所に維持される。

VIII.公衆の利益

 このファイナルジャッジメントの登録は公衆の利益にかなうものである。登録。

合衆国地裁裁判官
 



(訳1)この判決は、ファイナルジャッジメント(終局判決)であるが、内容は和解であるので同意判決<consent decree>とも呼ばれる。このファイナルジャッジメントはウェンディ・ゴールドマン・ローム著、倉骨彰訳「マイクロソフト帝国裁かれる闇(下)」の62頁〜89頁、165頁に記載された「同意審決」と同じものである。この本によると、1994年7月15日に司法省とMicrosoftの間で和解ができ、タニー法によるパブリックコメントの申し出が行われ、スポーキン地裁裁判官はこの和解を却下したが、控訴審ではシルバーマン、エドワーズ、バックリー判事からなる合議体が地裁の却下を取り消し、このファイナルジャッジメントは1995年に登録されたのである。

(訳2)コードネーム「Chicago」は、後に、正式名「Windows 95」として、販売される。

(訳3)(vi)は(i)〜(v)の後継バージョン又はアップグレード製品が適用製品であることを意味していると考えられる。かっこ内に訳した部分は極めてわかりにくいが、(a)は以前は独立した製品として販売されていた「他の」つまり適用製品ではないMicrosoftオペレーティングシステム・ソフトウエア製品(例えばWindows NT)の後継品でもあるかどうかにかかわりないということであり、例えばWindows 95(Chicago)の後継品であれば、それが同時にWindows NTの後継品でもあっても、適用製品であるという意味と考えられる。(b)は現在は適用製品の中に一体化されオペレーティングシステム機能を果たしているが以前はバンドルされていなかった製品の後継品でもあるかどうかにかかわりないということであり、例えば、IE 4.0はWindows 95とは独立して頒布されていたが、Windows 98では一体化されているとMicrosoftは主張しており、IEのような以前はバンドルされていなかった製品が一体化されていても、(i)〜(v)の後継品であれば適用製品であるという意味と考えられる。

(訳4)「コピーごとのライセンス」は「マイクロソフト帝国裁かれる闇(下)」の「本数ベースのライセンス」と同じものであり、83頁には、ヨーロッパ最大のコンピュータメーカーであるフォービス社トップのリーベン氏の言葉として、「われわれフォービスは、マイクロソフトのウインドウズも本数ベースでライセンス供与されることが、正しい解決策だと思います。それによってお客様は自分でどのOSにするのかを選択でき、フォービスは使用した数量分だけ(すなわち数量割引で)IBMやマイクロソフトに対してライセンス使用料を支払うというわけです。」と記載されている。この「コピーごとのライセンス」は使用しただけ支払うという当然な支払方法である(IV.D.参照)。なお、例えば、Windows 95をプレインストールしたパソコンには「ファーストステップガイド」が添付されており、その表紙にはMicrosoftの真正商品であることを証明する「Certificate of Authenticity」が貼付されているから、この枚数を管理すれば、Microsoftは各OEM(パソコンメーカー)がプレインストールした正確なコピー数を把握することが可能であり、「コピーごとのライセンス」で契約したとしても収益上はMicrosoftに不利な点は全くないはずである。

(訳5)「プロセッサごとのライセンス」は「マイクロソフト帝国裁かれる闇(下)」の「出荷台数ベースのライセンス」と同じものであり、83頁には、「その当時、フォービスは、マイクロソフトと出荷台数ベースでの契約を結んでいて、MS−DOS&ウインドウズのライセンス使用料として、出荷マシン1台あたり28ドルを支払っていた。しかし、『マイクロソフトは、本数ベースのライセンス使用料として、MS−DOSが23ドル50セント、ウインドウズが39ドル95セントという価格を提示してきました。』・・・」と記載されている。例えば、プロセッサとして「ペンティアム」を使用したパソコンの全出荷台数に1台当たりの使用料を掛けてMicrosoftに支払う金額を決めるもので、MicrosoftのOSが使用されていてもいなくても、全出荷台数×単価であり、異常な支払い方法である。これでは、他のOSを使用するだけ損であるから、OEM(パソコンメーカー)は全出荷台数にMicrosoftのOSをプレインストールすることになり、自然とMicrosoftのOSの独占状態がもたらされることになる。さすがに、「プロセッサごとのライセンス(出荷台数ベースのライセンス)」はこのファイナルジャッジメントの IV.C.で禁止された。

(訳6)「システムごとのライセンス」は「マイクロソフト帝国裁かれる闇(下)」の「システムベースのライセンス」と同じものであり、83頁には、「マイクロソフトは、本数ベースのライセンス供与にシステム・ベースの場合の倍以上の価格を設定していた。政府の禁止していない『システムベース』の価格を用いて、出荷台数ベースのライセンス供与でしたのと同じ結果を得ようとしていたのである。」と記載されている。このファイナルジャッジメントではIV.G.で「システムごとのライセンス」が条件付きで認められたが、MicrosoftのOSが使用されていてもいなくても、特定の型番(又は型名)のパソコンの全出荷台数×単価であり、プロセッサごとのラインセンスを小分けにしただけのもので、これも異常な支払方法である。このような異常な「システムごとのライセンス」が認められてしまったのは、プログラムと知的所有権についての当時の司法省の理解が十分ではなく、Microsoftの強力な法務力に対応できなかったためと考えられる。なお、このファイナルジャッジメントはアメリカの司法省とMicrosoftの間の合意であるから、日本の独禁当局を拘束するものではない。

(訳7)この「ただし書き」が加えられた経緯は「マイクロソフト帝国裁かれる闇(下)」の66頁〜73頁に記載されている。この「ただし書き」の解釈が1997年12月11日の地裁の「メモランダム及び命令」から1998年6月23日の控訴裁の「意見」までの主要な争点であった。

(訳8)これ以降に記載された4つのパラグラフがMicrosoftとOEM(パソコンメーカー)との間のライセンス契約書に記載されていることになる。システムごとのライセンス契約をした場合には(システムごとのライセンスを選択せざるを得ない料金設定がなされていると考えられる)、特定の型番、例えば、XY123についてシステムごとのライセンス契約をしたとすると、XY123という型番を持つパソコンの全出荷台数について使用料を支払わなければならないから、XY123の全ての台数にWindowsをプレインストールすることになる。しかし、OEMが「ニューシステム」(II.7.参照)を作成すれば、例えば、XY123Lという異なった型番さえ付ければ、他はXY123と全く同じ機種を、Microsoftに知らせることなく、例えば、Linuxをプレインストールして出荷することができるのである。また、XY123WLという「ニューシステム」を作成し、WindowsとLinuxの両方をプレインストールした場合は、その「ニューシステム」についてMicrosoftに知らせ、Windowsについてのライセンス交渉を行うことになる。このときMicrosoftはペナルティあるいは懲罰的な料金を課すことはできない。したがって、契約上はOEMは型番を変えるだけでWindows以外のOSをプレインストールして販売することが可能である。しかし、現実にはそうはなっていない。まず考えられるのは、「マイクロソフト帝国裁かれる闇(下)」の85頁でリーベン氏が述べているように、機種を増やすと在庫管理が難しくなるからある。しかし、最近は在庫を最小限にするように在庫管理が行われることが多いから、この面での敷居は低くなったと考えられる。次に考えられる問題点は、このファイナルジャッジメント上あるいは契約上はMicrosoftはペナルティや懲罰的な料金を課すことはできないが、あらゆるMicrosoft製品の次のバージョンアップのときに、性能アップの名目で料金値上げをされた場合、他社への提示額がわからないから(ZDNet)、その値上げを違法なペナルティや料金であると指摘できず、実質的に報復を受ける恐れがあるからと考えられる。したがって、Microsoftと良好な関係にあり割安な使用料で契約し利益をあげているOEMの場合は「ニューシステム」を作成することはリスクを伴うものである。しかし、割高な使用料で契約し万年赤字のパソコン事業部をかかえるOEMの場合は、リスクは伴うものの、「ニューシステム」にチャレンジするのも一つの選択肢ではないだろうか。
 
 

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